【11月3日 AFP】フィンランドのビール醸造所が、約170年前にバルト海(Baltic Sea)で沈没した商船に残されていたベルギービールの味を再現した──。

 ビールは、フィンランドのオーランド諸島(Aaland Islands)沖で2010年に発見された沈没船の中から出てきたもので、フィンランドとベルギーの科学者たちの共同研究チームが詳細にわたって調査を行い、このたび当時の味を再現した。ビール愛好家にとっては、先祖が飲んでいたビールを味見できるチャンスとなった。

 水深12メートルを探索していたダイバーらは長期間消息不明だった沈没船の船内から、145本のシャンパンボトルとその傍らのわずか5本のビール瓶を発見した。このとき見つかったシャンパンは世界最古の飲酒可能なものとして確認されている。

 ベルギー・ルーベン大学(University of Leuven)の研究チームは声明で「シャンパンとは異なり、ビールは飲めそうになかった」と述べている。だが現代化学と少しの工夫が、当時のビールを飲む機会を提供した。

 とはいえ味の再現には本格的な特定作業が必要だった。船は1840年代に沈没したと考えられるが、船名も出港地も不明であることからビールの原産地は謎だったためだ。

 それでも、フィンランドの首都ヘルシンキ(Helsinki)近郊のエスポー(Espoo)にあるフィンランド技術研究センター(Technical Research CentreVTT)の技術者たちは、このビールがベルギー国内で醸造された可能性が最も高いと結論付け、そこにベルギーのルーベン大学の研究チームが参加し、正確な原材料と醸造法の特定を行った。

 微生物学者のグイド・アールツ(Guido Aerts)氏はAFPに対し「最大の課題はこの種のビールの製造に使用された微生物の種類を特定することだった」と説明した。ビール独特の味わいを決めるのに最も重要な原料は酵母菌だと醸造家の大半は言うだろう。しかし酵母菌の種類は数千にも上り、発見されたビールに使用されたものを特定することは非常に困難だった。

「このビールの製造に使用された培養酵母菌は170年前のもので、他の複数の物質が混入していたため特定するのは簡単ではなかった」(グイド・アールツ氏)

 しかしこれらのビールが、より経済的な樽ではなく瓶に入れて輸送されていたことから、高価なビールだったに違いないと研究チームはほぼ確信していたという。

■現代のビールよりも甘め

 このビールは現在、当時そのままの味で入手可能となっている。アルコール度数は4.5%で現代のビールよりもかなり甘い。

 フィンランドの地ビール醸造所スタルハーゲン(Stallhagen)はこれまでに「Stallhagen 1843」と名付けられたこのビールを12万本製造。同社の最高経営責任者(CEO)のヤン・べンストローム(Jan Wennstroem)氏は、「上品で繊細な味」と説明する。

 また同社は高級ボトルに入った高額な「特別版」を1000本製造。最初の1本は9月に競売にかけられ、850ユーロ(約12万円)で落札された。

 べンストローム氏は「他にも宝が眠っているかもしれない」として、今も海底に沈んだままとなっている沈没船の研究に売上金の一部を充てる予定と話している。(c)AFP/Raine TIESSALO