【10月28日 AFP】西アフリカでのエボラ出血熱流行は、人道的悲劇に加え、医療秩序の信頼失墜をもたらしている。

 対応の遅さと誤算の責任を問われ、最も大きく信頼を損ねているのが国連(UN)の世界保健機関(World Health OrganizationWHO)だ。また、批判の矛先は大手製薬企業や、欧米諸国のアフリカ支援政策にも向けられ、先進国で潤沢な予算を与えられている医療システムへの市民の信頼も傷つけられた。

 英医学専門誌ランセット(Lancet)は今月7日、「リーダーシップの欠如によって、防ぎうる伝染病が制御不能な状態に陥り、社会秩序と人間の尊厳に重大な害をもたらしている」「エボラ出血熱をきっかけとして大改革を敢行しなければ、WHOと国連の信頼は大きく損なわれ、今後も長期にわたり危機的状況を許すことになるだろう」と批判した。

 医学史の専門家であるフランス国立科学研究センター(CNRS)のパトリック・ジルバーマン(Patrick Zylberman)氏は、WHOが「国境なき医師団(Doctors Without BordersMSF)」のような最前線で活動する団体からの警告になかなか注意を払わなかったと指摘し、「対応に遅れがあったことは誰もが認めている。ここまで流行が拡大した一因だ」と批判した。

 WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International ConcernPHEIC)」を宣言したのは8月8日。今回の流行で最初の感染者が確認されてから、すでに20週が経過していた。ジルバーマン氏は「甚だしく遅い対応だ」と非難している。

 対策費の見積もりも後手だった。4月にエボラ出血熱対策に必要な支援としてWHOが試算したのは480万ドル(約5億円)。その後、7月に7100万ドル(約76億円)、8月に4億9000万ドル(約530億円)、その数週間後には9億8800万ドル(約1066億円)と大幅な見直しを重ねた。

 国連の専門機関であるWHOの運営予算は米疾病対策センター(Centers for Disease Control and PreventionCDC)のわずか3分の1な上、WHO自身に管理権限があるのはうち30%のみだ。2011年には6億ドル(約650億円)近い予算削減に伴い、WHOの緊急事態関連部署の人員も削減され、WHOを離れた伝染病専門家もいた。また、がんなど非感染性疾患対策の比重を高める方針転換もあり、伝染病対策部署の人員は95人から30人に減っていた。