バッハを聴きながら熟成するワイン 南アフリカ
このニュースをシェア
【9月29日AFP】南アフリカ・西ケープ(Western Cape)州のステレンボッシュ(Stellenbosch)近郊にあるブドウ園には、昼も夜も1年を通してバロック音楽やクラシック音楽が流れる。収穫されたブドウでつくられたワインが熟成されている間も、セラーの中で同じように音楽が奏でられる。
ワインメーカーのカール・バン・デル・メルベ(Carl van der Merwe)さんに、植物に話しかけるという英国のチャールズ皇太子(Prince Charles)のように嘲笑されないかと尋ねると、彼はにこりとしてこう言った、「私たちがやっていることに懐疑的な人はたくさんいる。とくに近所の人たちがね」と。しかし彼は、ブドウ園のオーナーである実業家のウェンディ・アップルバウム(Wendy Appelbaum)さんと夫のハイルトン(Hylton Appelbaum)さんが採用したこの音楽的アプローチを信じている。ハイルトンさんは、南アフリカでクラシック専門のFMラジオ局を立ち上げるほどの音楽好きだ。
アップルバウム夫妻は2003年に土地を購入し、音楽的アプローチを2009年に導入した。牛や豚など、家畜の生産量と質を上げるために音楽を聞かせている農家たちにならったのだ。
ワインに対する音楽の効果について科学的には何も証明されていなかったが、耳に心地よい調べはいい影響をもたらすと、夫妻は信じてきた。
「人生ではときに信念から何かをやって、後に科学的な根拠が見つかることがある」と、バン・デル・メルベさんは言う。
では仮に音楽でいいワインができるとして、なぜロックじゃなくてバロックなのか?
「バロック音楽とクラシック音楽しか使わないのには理由がある。この2つには数学的なリズムがあり、これらの音波は自然に好影響を与えることが証明されているからだ」と、彼は言う。
バン・デル・メルベさんがブドウ園55ヘクタールのうち4ヘクタールで実験をしてみたところ、音楽にはブドウの成長をゆっくりにして均一にする効果があったという。
「ここで取れたシラーは、敷地内の他の場所で取れたものとまったく違う。香りが際立ち、なめらかな酸味で、アルコール度は低い傾向にある。バランスがよく飲みやすいワインができるのだ」と、彼は言う。
ワインとしてたるの中で熟成される際にも同じ音楽が聞かされる。植物のときはわかるにしても、液体になってからも音楽の効果はあるのか?
バン・デル・メルベさんは、「ワインはさまざまなバクテリアとともに生きている。発酵の過程はそうした生命体によって行われるのだ」と、指摘する。
いつの日か、この音楽的アプローチが広く受け入れられるようになったら、ワインの批評家たちは「ベリーとマッシュルームの風味が~」と語るだけでなく、「バッハとモーツァルトの調べが~」ともコメントしなくてはならないかもしれない。(c)AFP/Lawrence BARTLETT