【9月18日 AFP】たばこの煙で充満したバーや、満室のがん病棟は、何十年にもわたるアジアでの「たばこ政策」の欠如を反映している──しかし、研究者らによると、地域の低所得国も高所得国も、たばこに関連した健康被害のまん延にようやく気付きつつあるようだ。

 米国や一部欧州の国では、持続的な禁煙運動により喫煙率が低下したが、アジアの国々では、喫煙リスクの周知不足とたばこの積極的な宣伝により、喫煙率は高いレベルを保ったままだ。


 世界人口のおよそ60%が暮らしているアジア地域について、4月に医学誌「プロス・メディシン(PLOS Medicine)」に発表された大規模な地域調査では、「(アジアでは)たばこ規制政策が十分に発達していない。これはとりわけ中国やインドなどの低中所得国で顕著だ」と結論づけられている。

 かつては成人男性の85%が喫煙者だったこともある日本や韓国などの地域内の先進国でも、当局が喫煙率削減に向けた政策に本腰を入れ始めたのはごく最近。韓国は先週、政府がたばこ価格の80%の引き上げを提案したばかりだ。

 韓国のたばこ市場は推定で年9兆4000億ウォン(約9800億円)。その一方で喫煙による疾患治療に費やされる公費は年に1兆7000億ウォン(約1800億円)に上っている。当局は4月、国内外のたばこメーカーを相手取り、たばこに関連した疾患に対する損害賠償として537億ウォン(約56億円)の支払いを求める訴訟を起こした。

■対策は「不十分」で「遅すぎ」なのか

 喫煙率が低下しているにもかかわらず、世界の喫煙者数は1980年当時よりも増加している。これは中国やインドなどの国々の人口増加が原因だという。

 1月に「米国医師会内科学雑誌(Journal of the American Medical Association Internal Medicine)」に掲載されたデータによると、中国の2012年の喫煙率は30年前の30%から24%に減少したが、喫煙者数は30年前よりも約1億人増加していた。

 現在、中国の喫煙者数は3億人に迫る勢いだ。公共の場を禁煙とする取り組みもなされているが、取り締まりの不十分さがネックとなっているという。

 喫煙関連死は中国で年間120万人、インドで同約100万人に上る。また複数の研究では、死亡者の数が今後さらに急増する可能性も示唆されており、英医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(British Medical JournalBMJ)に発表された研究によると、2012年~2050年までの中国の喫煙関連死は5000万件に達する恐れもある。

 さらに、喫煙と関連した疾患をめぐっては、その発症までに長い期間がかかることから、全容はまだ把握できないでいるのが現状だという。

 プロス・メディシン誌掲載の論文は「多くのアジア諸国は、たばこ健康被害まん延の初期ステージにある」と指摘しており、「喫煙のもたらす疾患の負担は、今後数十年にわたって増加し続ける可能性が高い。そして、たばこのまん延に歯止めをかけなければ、さらに長期化するだろう」と警鐘を鳴らしている。(c)AFP/Giles HEWITT