エボラ出血熱の治療薬、開発妨げてきた「利益」という障害
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【9月17日AFP】初めて感染が確認されてから約40年、これまでエボラ出血熱と聞いて思い浮かぶのは死と恐怖だったが、「利益」というシンプルな動機がその「呪い」を拭い去る妨げになっていた。
その悪名高さにもかかわらず、エボラ出血熱が拡大するのはまれで、たとえアフリカの貧困国で発生しても短期的なものだった。そのため、その小規模で貧しい「(エボラ治療に関する)市場」は大手製薬会社にとって、多額の資金を投入して新薬やワクチンを開発するにはあまりに優先度が低いということを意味する。
だが今、そのワクチンや新薬開発の動きが、「利益」という要因は一時的に脇に置かれ加速している。
「今回、西アフリカで感染が拡大するまで、エボラ出血熱は公衆衛生の問題ではなく、実際にはまれな感染症だった」と、1976年にエボラウイルスを発見したチームに参加していたロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院(London School of Hygiene and Tropical Medicine、LSHTM)学長のピーター・ピオット(Peter Piot)氏は言う。「製薬会社だけでなく、誰もがほとんど興味を示さなかった」と、同氏はAFPの取材に対し、メールで答えた。
同氏はさらに、「だが状況はいま変わっている。英医薬品大手グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline、GSK)と、(ジョンソン・エンド・ジョンソン、Johnson & Johnsonの子会社である)ヤンセン(Janssen)という大手2社がワクチンの開発に出資している」と語った。
ギニアやリベリアなど西アフリカで流行している今回のエボラ出血熱は、社会的混乱や経済への悪影響も引き起こし、アフリカの近隣諸国だけでなく欧州にも不安をもたらしている。
現在最も開発が進んでいる2つの治療法と2つのワクチンは、まだ安全面での試験を始めたばかりの段階だ。
8月12日、世界保健機関(World Health Organization、WHO)は試験薬の使用を許可した。感染の拡大状況と、いまだ治療法もワクチンも見つかっていないことを考慮し、倫理的だと判断したのだ。臨床試験は通常、3段階にわたる慎重な審査のもと、数年かけて行われる。
WHOは9月5日には、ワクチンが11月には感染区域に供給できそうだとの見通しを発表した。
もしこの急速なプロセスが結果を出せば、次の問題が生じるだろう。その治療薬の生産と供給のための資金を誰が払うのか?「エボラは典型的な奇病だ」と、英ロンドン(London)のキングズ・カレッジ病院(King's College Hospital)の生物倫理の医師であるアネッテ・リッド(Annette Rid)氏は言う。公的な資金やチャリティーなどがまず元手を出し合わないといけないと、同氏は付け加えた。
「効果的な治療法やワクチンが見つかれば、エボラ出血熱が再発しそうなアフリカの国々にストックをためておく必要がある」と、ピオット氏は言う。「それはWHOの支援のもと、国際社会の資金で行うことができる」
米国立アレルギー感染症研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases、NIAID)のアンソニー・ファウチ(Anthony Fauci)所長は、今回の危機の規模から、大手製薬会社がその役割を果たすだろうと、楽観的な見方をしており、「以前は何の動機もなかったが、いまや誰もが大きな問題だと理解している。より多くの企業が関心を示している」と語った。
貧困国へのワクチン供与を行っているGAVIアライアンス(GAVI Alliance)のセス・バークリー(Seth Berkley)代表は、やる気を起こさせる方法は複数あると語る。「ワクチン開発に直接出資するのもいいし、企業に投資することもできる。さまざまなメカニズムがあり、すぐにできるだろう」(c)AFP/Richard INGHAM