エボラ犠牲者の遺体収容に駆け回る赤十字、リベリア
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【9月8日 AFP】化学防護服に身を包んだ医療スタッフが、亡くなったときに身重だったファティマ・ヤケマさんの体を無造作に持ち上げ、袋に入れてチャックを閉めると、エボラ出血熱の史上最悪の流行による犠牲者の遺体袋がまた一つ増えた。ヤケマさんの人生を振り返る間も、残されたであろう家族のことを思う間もなく、赤十字(Red Cross)のチームはヤケマさんが触った可能性がある物すべてを殺菌消毒し、次の家へと移動する。
リベリアの首都モンロビア(Monrovia)郊外の集落、バンジョール(Banjor)のある住民はヤケマさんについて「まだ20歳で、初めての子どもだったのに。病気になると近所中が一斉に逃げてしまった。彼らはどこに行ったのか分からない」という。数日間はヤケマさんの助けを求める叫び声が聞こえていたが、そのうち声はしなくなった。「飲み物や食べ物を欲しがっていたが、私たちは近づくのが怖かった。エボラにかかった人間を助けようと近付いただけで、近所から追い出されるから」とこの住民は語った。
西アフリカのエボラ出血熱の大流行には、死の尊厳も別れも葬儀もない。ただここにあるのは、遺体袋と防護服と何トンもの消毒液だけだ。
■「亡くなったことを確認してから連絡を」
感染者の体液との接触を通じて伝染するエボラウイルスにより、今年に入ってこれまでに4か国で2100人が死亡している。その半数以上がリベリアの死者だ。元々脆弱な国の医療システムが崩壊しそうな中、赤十字のスタッフたちは1軒ずつ家をまわり遺体を収容し、その家を殺菌するという厳しい仕事をこなしている。バンジョールには2人の遺体を引き取りに来たが、すぐにもっと遺体があることに気付いた。
この集落の長老は、ヤケマさんの遺体を袋に入れ終わった赤十字チームのリーダー、キイェア・フライデー(Kiyea Friday)氏をブリキ屋根の隣の小屋に案内する。
この小屋にいたファトマ・アマドゥさんは死んではいなかった。しかし、玄関の戸口の辺りに身を投げ出して横たわり、苦しそうにあえいでいた。中に高齢の女性の遺体があるという情報を基に、防護服を着た2人の看護師がアマドゥさんをまたぐようにして家の中に入る。数分後、出てきた2人は上司に、女性はまだ生きていると報告した。
フライデー氏は長老に「私たちの任務は遺体の引き取りなのです。私たちを呼ぶ前にその人が死んでいるのかどうか確認してください。患者の担当はまた違う部署なのです」。長老は礼儀正しく、感情を抑えて応じようとしたが、涙が頬をつたい落ちていった。「分かりました。彼らが死んだら、また呼ぶようにします。来ていただいて、ありがとうございます」。
■1日に50体
一方、フライデー氏は携帯電話をかけ静かに、しかし急を要する口調で言った。「重症の患者が2人いる。救急車を回してくれないか。遺体袋ももっと要る、最低あと6つ。死亡率が高すぎて気分が悪くなってくる」
エボラウイルスが最も感染しやすいのは患者が亡くなったときだ。この地では遺体を洗って清める風習があるが、これは感染を地理的に拡大させる原因だと非難されている。赤十字の任務は「遺体管理」──大流行を封じ込めるための重要な役割を遠回しにした言い方だ。
「1日に15遺体以上を収容するときもある。チームは我々以外にもいるので、赤十字全体では1日に30~50遺体を収容していると思う」とフライデー氏はいう。「人が死んでいっている。これがいつ、どのように収束するか、我々には見当もつかない」(c)AFP/Zoom DOSSO