【9月3日 AFP】サーシャさんは10歳の頃から、モスクワ(Moscow)と郊外にある自宅の往復に電車を使っている。ただ普通と違うのは、車内の席には座らず、高速で走る電車の屋根に登ってしまうことだ。

 ロシアではサーシャさんのように、スピードと自然原理に挑み、当局の権力に逆らって興奮状態を味わうことで命を危険にさらす若者が増えている。この「トレインサーフィン」をする若者は自らを「zatseperi」(ロシア語で「しがみつく」の意味)と呼び、危険を伴う離れ業を誇らしげに続ける。

 サーシャさんは「電車の屋根に登ってどれほどの距離を走ったか、もう数えきれない。始めたばかりの頃は四六時中『サーフィン』して、学校になんか行かなかった」と話した。もうじき18歳になるサーシャさんは、まだ少年のような顔つきと、若さゆえの強がりにあふれた口調で、「酒を飲んでいない限り」危なくはないと話す。

「ある晩、少し酔っていた友達と一緒に(電車で)家に向かっていら、彼が電車から落ちて、即死した。それから1週間サーフィンをやめたけど、また始めたんだ」

 トレインサーフィンをする若者たちが、罰からは免れることができるという感覚を持ってしまうのは、警察にとらえられた場合に要求される罰金が100ルーブル(約280円)と、ばかげた額であることが大きな原因だ。ロシア鉄道はここ何年にもわたり、危険行為を思いとどまらせるために、罰金の額を5000ルーブル(約1万4000円)程度に引き上げるよう求めてきた。

 ミシャさん(16)は2週間前、警察から逃れようと電車から飛び降り、頭を地面に強く打ち出血する大けがをした。だが家に帰った時に両親に言われた言葉は、「もっと気をつけて」だけだったという。「郊外の通勤電車には飽きてしまった。すごく簡単だから、興奮状態にはなれないんだ。今度はサプサン(Sapsan)に挑戦するかもしれない」。サプサンはモスクワ─サンクトペテルブルク(Saint Petersburg)間を走る高速列車。最高速度は時速250キロと、通常の電車の2倍以上だ。

「zatseperi」たちは、高速で走る列車の屋根に登るだけでは終わらない。車両間を飛び移り、列車がカーブする時に片手だけで車体をつかみ体を外にスイングさせたりもする。