高まる薬剤耐性菌リスク、インドの抗生物質多用が世界の問題に
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【8月31日 AFP】その薬剤師は、背後の棚から抗生剤の白い箱をさっと取り出し、カウンター越しに手渡してきた。処方箋の提示を求められることはなかった。――インド・ニューデリー(New Delhi)郊外の高級住宅地にある薬局での出来事だ。
重度の肺炎や気管支炎といった急性の細菌感染症の治療に使われる強力な抗生物質は、本来、最後の最後に頼るべき薬とされる。インドでも処方箋なしの販売は昨年、違法化された。しかし、AFP記者は多くの客でにぎわう薬局で、およそ700ルピー(約1200円)で簡単に購入できた。
医師や医療専門家らは、人口12億人のインドでこのように手軽に抗生物質が入手できる事実が、薬剤耐性菌を増やし、地球規模の問題をもたらしていると指摘する。治療可能となって久しい病気が、再び不治の病になりかねないのだ。
「抗生物質への耐性が上がってきているのは恐怖だ」と、インド医薬品規制当局のGN・シン(GN Singh)局長はAFPの取材に語った。「誤用や乱用は、あってはならない。そのうち、軽い病気でも治せなくなる」
だが、抗生剤が簡単に入手できてしまう現実に「驚きはしない」とシン局長。薬剤師や過剰処方する医師を取り締まり、使い過ぎの危険を患者に説いているが、苦戦しているという。
■世界で増加する抗生剤使用、インドがけん引
米プリンストン大学(Princeton University)が7月に発表した研究「Global Trends in Antibiotic Consumption 2000-2010(抗生物質消費の世界的傾向・2000~2010年)」によれば、抗生物質の過剰使用は、インドをはじめとする新興国で顕著だという。
経済規模124億ドル(約1.3兆円)のインドの医薬品産業は、世界の抗生物質の3分の1近くをまかなっている。
インドでは、寝ていれば自然に治るような軽い病気でもすぐに治そうと抗生物質を常用する人々が、台頭する中間所得層で増えている。医師たちも、抗生物質が効かない病気にも誤って処方していると、消化器系が専門のスディープ・カナ(Sudeep Khanna)医師は証言する。
「患者から多大なプレッシャーをかけられることが多い。患者はすぐに楽になりたいと思い、医者も早く回復させようと過度な治療を行う傾向がある」(カナ医師)
プリンストン大の研究では、世界の抗生物質の使用量は2000年からの10年間で36%増えた。世界最大の消費国は62%増のインドだ。