【8月22日 AFP】「北京ダック発祥の地はどこ?」──中国の首都、北京(Beijing)の名を冠するこの料理は、実は南に数百キロ離れた南京(Nanjing)生まれだ。

 北京に本店を置く北京ダックの老舗チェーン「全聚徳(ぜんしゅとく、Quanjude)」は創業150周年を記念して、7月に展示館を開設した。発祥地や正餐(せいさん)の写真、100年前のメニューなど北京ダックにまつわる事柄を知ることができる。

 展示館では秘伝の材料は一切、明かされていないが、北京ダックがテーブルに並ぶまでの仕込みから調理の工程が、約20の模型を使って詳しく説明されている。アヒルが3キロ前後に成長したら食用に処理。皮と身が離れやすくなるよう、アヒルの体内に空気を送り込んでパンパンに膨らませる。内臓を取り、水飴を染み込ませるために沸騰したお湯をかけ乾燥させた後、水飴をかけながら皮がぱりっと仕上がるように炉で焼く。

 アヒルを焼く手法は南京の宮廷の厨房で生み出され、北京には15世紀に明朝の永楽帝(Yongle Emperor)が南京から遷都した際に伝わった。

 中国の食文化に詳しい英国人フードライター、フクシャ・ダンロップ(Fuchsia Dunlop)さんによると、全聚徳は1864年の創業の際、元宮廷料理人を雇い入れ、アヒルを炉の中につるして焼く調理方法を取り入れたという。

 全聚徳本店で食事をしていた客のへ・ユーファンさんは「シェフが北京ダックを切る様はまさに芸術で、これを食べるのは格別」と話した。へさんの友人は、北京ダック発祥の地がどこであるかには関心がないようで「北京こそが世界で唯一、本物の北京ダックがある街。他では味わえない」と話した。

■北京ダック外交の歴史

 これまでに世界で1億9600万羽の北京ダックを提供してきたと誇る全聚徳によると、この料理は中国の外交史の中で重要な役割を果たしてきた。

 全聚徳の料理人はよく中国の外交使節団に同行する。展示館には、1972年に世界史に残る中国訪問を果たした米国のリチャード・ニクソン(Richard Nixon)大統領とヘンリー・キッシンジャー(Henry Kissinger)大統領補佐官が北京ダックを食べている写真もある。「ピンポン外交(卓球)、マオタイ外交(中国特産の白酒)、北京ダック外交は時の首相、周恩来(Zhou Enlai)の3大外交戦術と呼ばれていた」とパネル展示では説明している。

 周首相は、共産主義への傾倒を疑われ米国からスイスへ亡命していた喜劇王、チャーリー・チャップリン(Charlie Chaplin)とも1954年にジュネーブ(Geneva)で会食したことがある。チャップリンは周首相に「私はアヒルに特別な思いを持っている。私が生み出した歩き方が滑稽なキャラクターは、アヒルがモデルとなっている。だからアヒルは食べないことにしているが、今日だけはそのルールを破ろうと思う」と話したとされている。

 中国は2015年に中華料理をユネスコの無形文化遺産に登録申請するといわれている。現在、登録されている食に関する無形文化遺産は、フランス料理や和食などごくわずかだ。ダンロップ氏は、全聚徳の展示館は自国の食文化を宣伝しようとする、最近の全国的な傾向の表れだと話した。(c)AFP/Martin ABBUGAO