軍政下で「盗まれた孫」、36年ぶりに発見 アルゼンチン
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【8月6日 AFP】アルゼンチンで5日、83歳の女性が1976~83年の軍事独裁政権下で自分の娘の下から奪われた孫の存在を36年ぶりに確認した。この女性は「盗まれた孫」たちを捜す女性たちの人権団体「5月広場の祖母たち(Abuelas de Plaza de Mayo)」の代表エステラ・デ・カルロット(Estela de Carlotto)さん。
カルロットさんはこの日、DNA鑑定の結果、イグナシオ・ウルバン(Ignacio Hurban)さん(36)が亡くなった娘が産んだ子であることが判明したとの連絡を受けた。
「汚い戦争(Guerra Sucia)」と呼ばれる右派軍事独裁政権による左派弾圧の中、カルロットさんの娘で左派の闘士だったラウラ(Laura Carlotto)さんは、1977年に妊娠3か月の体で強制収容所へ連行された。
ラウラさんは1978年6月26日、獄中で男児を出産。生まれた男の子を「ギド(Guido)」と名付けたが、出産からわずか5時間後に男児は軍に奪われた。それから2か月後にラウラさんは処刑され、遺体がカルロットさんに引き渡された。以来、カルロットさんは孫は必ず生きていると信じ続け、行方を追っていた。
男児は軍の高官によってラウラさんから引き離された後、別の家庭に渡され、そこで育てられた。カルロットさんによれば、その家族はおそらく事実を知らず、男児を大切に育てたようだという。
■「114人目」の子ども
カルロットさんには4人の子どもがいたが、ラウラさん以外は全員存命で、14人の孫と2人の玄孫もいる。カルロットさんの実孫であることが判明したウルバンさんもいとこたちと同様にアーティストで、ミュージシャンだと、カルロットさんは聞いている。
ウルバンさんは、首都ブエノスアイレス(Buenos Aires)の南西350キロに位置するオラバリア(Olavarria)に住んでいる。1か月ほど前に、軍事政権下で行方不明になった人々の特定を行っている国家委員会に自ら不明者だと名乗り出たという。
ウルバンさんとはいとこ関係になるクラウディア・カルロット(Claudia Carlotto)さんは、既にウルバンさんと電話で話したと語った。「とても幸せそうで興奮していた。もうすぐ家族の皆で会う予定だ」
軍政下で左派活動家や政府に反対する人たちの元から取り上げられた乳幼児は約500人もいる。こうした子どもたちと家族との再会を果たす努力が「5月広場の祖母たち」や姉妹団体「5月広場の母たち(Madres de Plaza de Mayo)」を中心にアルゼンチン全土で続けられており、カルロットさんの孫のウルバンさんは114人目に発見された子どもとなった。
「盗まれた」子どもたちの多くは軍や警察幹部、あるいは実の親を殺害した張本人に育てられている。
アルゼンチンで軍政時代に殺されたり、拉致された後に殺害されたとみられる市民は約3万人に上る。(c)AFP/Liliana SAMUEL