ベネズエラの「高層スラム街」、不法居住者の退去開始
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【7月23日 AFP】ベネズエラの首都カラカス(Caracas)で22日朝、「高層スラム街」として知られギャングの温床にもなっている45階建ての高層ビル「ダビドの塔(Tower of David)」の不法居住者を退去させる作業が始まり、軍当局が100世帯以上を退去させた。
身の回りの品を持った住民たちは静かにビルを出て、政府の車でカラカス郊外の新しい住み家に向かった。
米国のテレビシリーズ「ホームランド(Homeland)」でも描かれたダビドの塔には、約3000人が不法に住み着いている。首都の中心部にそびえるこの建物は同国を悩ませる貧困と無法状態のシンボルとなっていた。
1993年、金融危機とこのビルの所有者で投資家のダビド・ブリレンブルグ(David Brillembourg)氏の死去によって建設は中断された。2007年にウゴ・チャベス(Hugo Chavez)大統領(当時)が許可したことから、ギャングやホームレスの人たちが住み着き、武装した警備員が見守る一時しのぎの住宅として他者を寄せ付けない現在の姿に変貌していった。
住民たちはビル内の秩序を守る自治組織を作って交代で床の清掃や共用部の維持管理をしているほか、計画を立てて文化活動、スポーツイベント、宗教行事を行っている。
妻と10人の子供と一緒に6年前からこのビルの7階で暮らしているウンベルト・イダルゴ(Humberto Hidalgo)さん(56)は、退去する住民たちを心配そうに眺めていた。
ここで住まいを見つける前はホームレスだったというイダルゴさんは、いずれ自分たちも退去しなければならないのは分かっていると話し、涙をこらえながら「いつまでここで暮らせるのか、次はどこに行くのか分からない」と語った。「でも、私たちの大統領はきっときちんとした家を与えてくれるよ」
エルネスト・ビジェガス(Ernesto Villegas)首都区再建相は、住民の退去は強制的な立ち退きではなくビル住民のコミュニティーと協力して行っているもので、退去する人たちは自発的にカラカス郊外のシウダーサモラ(Ciudad Zamora)の公営住宅に引っ越しているところだと述べた。
ベネズエラ政府が、不法居住者が集まり始めてから7年がすぎた今になって住民の退去を決めた理由は明らかになっていない。未確認ながら中国が関係しているという報道もある。カラカスを訪れた中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は21日、石油や鉱物資源に関する多数の協定に署名した。(c)AFP/Patricia CLAREMBAUX