【7月9日 AFP】イラク政府は、サダム・フセイン(Saddam Hussein)元大統領の時代に建設された旧化学兵器製造施設が武装勢力に占拠されたと、国連(UN)の潘基文(バン・キムン、Ban Ki-moon)事務総長に宛てた1日付書簡のなかで報告した。国連が8日、イラクのムハンマド・アリ・ハキム(Mohamed Ali Alhakim)国連大使からの書簡の内容を公開し、明らかになった。

 それによると、フセイン政権時代に化学兵器開発計画が進められていたムサンナ(Muthanna)の施設跡で先月11日夜、「武装したテロリスト集団」が警備にあたっていた兵士たちから武器を奪い、敷地内に侵入した。監視カメラには、翌早朝に施設内の設備や機器が略奪される様子が映っていたという。監視カメラは「テロリストら」が電源を切り、現在は作動していない。

 施設では、フセイン政権時代の化学兵器計画に使用された化学物質の残余物を保管していたという。イラク政府は、施設が占拠されたため現在は「化学兵器の破棄義務」を果たせない状態にあると説明したうえで、「安全状況が改善し、施設を再び管理下に置き次第、破棄作業を再開する」としている。

 米中央情報局(CIA)の文書によると、首都バグダッド(Baghdad)の北西約72キロに位置するこの施設では、フセイン大統領が就任した直後の1980年代からマスタード・ガスやサリンなどの神経ガスが製造されていた。

 ハキム国連大使の書簡は、イスラム教スンニ(Sunni)派の過激派がこの施設を制圧したと伝えた米国政府の発表を追認するものとなった。

 制圧を発表した米国務省のジェン・サキ(Jen Psaki)報道官は当時、施設内に残っている物質は全て古く取り扱いが困難なため、「イラク・レバントのイスラム国(Islamic State of Iraq and the LevantISIL)」(現「イスラム国(Islamic State)」)の兵士らが使用する化学兵器を製造することは不可能との見方を示している。

 イラクの化学兵器製造計画は、1980年代のイラン・イラク戦争中に拡大し、80年代後期に製造量は最大水準に達した。1987年と1988年には、それぞれ209トンと394トンのサリンが製造されている。(c)AFP