【7月8日 AFP】ブラジル・リオデジャネイロ(Rio de Janeiro)、マラカナン・スタジアム(Maracana Stadium)の放送席では、サッカーW杯ブラジル大会(2014 World Cup)準々決勝ドイツ対フランス戦を特別な観客に向けて実況放送するため、2人のコメンテーターが準備していた──。

 両チームが入場すると、2人はスタンドにいる一部の人々のために、試合前の様子を詳細に語り始める。聞いているのは全員、目の不自由なファンたちで、スマートフォンを使って放送を拾っている。

 国際サッカー連盟(FIFA)は今回のブラジル大会で初めて、視覚障害者のための音声放送システムをスタジアムに導入。視覚支援サービスを提供するブラジルのNGO「ウレセ(Urece)」の協力を得た。ジャーナリストで、この日のコメンテーターを務めたエドゥアルド・バターさん(23)は「すべてを言葉にしなくちゃならない。スタンドの雰囲気、選手たちの風貌、ユニフォーム、色、大型スクリーンの映像などすべて」と話す。

 ブラジル人口2億人のうち、視覚に障害のある人は約650万人。その人たちの多くは、サッカーへの情熱を共有し、親戚や状況を説明してくれるガイドと一緒に各地のクラブへと試合観戦に出向く。

 利用者のアリ・エレーラ・ダ・シウバさんは「ラジオより全然いいよ。ラジオはコマーシャルばかりだし、点が入れば、コメンテーターは『ゴオオオオーーーーーール!』と言い続けるばかりで、何が起きてるのかさっぱり分からない」と述べた。

 コメンテーターのバターさんも、ゴールシーンにはいっそう気を使っているとし、「他の観客と一緒になって喜んでもらうためには、すべてを伝えなくちゃならない大事な瞬間だ」と話す。

 放送席では3分ごとに2人のコメンテーターが交替する。1人が実況放送している間、もう1人は観客のウェーブや監督の怒り、観客が反応した巨大スクリーンの映像など、コメント中の相方が見逃しそうな細かい部分をしっかり見ておく。