【6月25日 AFP】欧州諸国が債務危機にあえぐなか、イタリアと英国は国内総生産(GDP)をかさ上げする方法として、売春や麻薬取引、密輸といった地下経済に目を向けている。

 イタリアは5月、麻薬取引や売春、酒類やタバコの密輸などを2015年からGDP統計に加算する方針を発表し、物議を醸した。欧州連合(EU)当局がこれを認めれば、財政赤字のGDP比率が低下する。これは財政赤字を対GDP比3.0%以内に抑えるというEU基準の達成を目指す国にとって大きな助けとなる。

 イタリア銀行(Banca d'Italia、中央銀行)の2012年の推計によると、同国の地下経済の規模はGDPの10.9%を占め、これを含めると経済成長率は政府統計の1.3%を上回る。

 また同じ5月に英国も、売春や麻薬取引など違法な経済活動をGDP統計に加えると発表した。これにより、約100億ポンド(約1兆7100億円)が加算され、GDPは約1%押し上げられるという。

■売春や麻薬取引は「自由な合意に基づく商業活動」か?

 GDP統計への地下経済の加算は、EUが今年9月から加盟国のGDPの算出基準を改定することに伴い、EU統計局(Eurostat、ユーロスタット)が推奨している措置の一つだ。EU広報部は「GDPは道徳性の指標ではない」と述べており、GDP算出法が異なる加盟国同士の比較が容易になるとしている。また加算されるのは、合意に基づいた取引のみだと説明している。

 債務危機に苦しむ欧州諸国政府の大半は、幻滅した有権者と市場をともに安心させることができるGDP上昇はいかなるものでも歓迎するだろう。しかし、政治家や人権擁護団体からは怒りの声が巻き起こっている。

 フランスのナジャト・バロベルカセム(Najat Vallaud-Belkacem)女性権利相兼政府報道官と、ベルギーのジョエル・ミルケ(Joelle Milquet)副首相兼内務・機会均等相はともに欧州委員会(European Commission)に抗議の書簡を送り「驚き」を表明した。二人は「売春は自発的な商業活動ではない。そのように考えることには思想的偏見があると思うのは幻想であり、世界中で性的搾取の犠牲となっている何百万という人々に対する侮辱だ」と批判している。

 フランスのGDPを算出してる仏国立統計経済研究所(INSEE)のロナン・マイユ(Ronan Mahieu)所長は「売春を当事者間で自由に合意される活動とみなすことはできない。またドラッグ、特にハードドラッグも依存の問題を考えれば、同じことが言える」と述べている。

 欧州の地下経済の規模は巨大だ。オーストリアのヨハネス・ケプラー大学(Johannes Kepler University)のフリードリヒ・シュナイダー(Friedrich Schneider)教授は、EUの地下経済規模は、2014年の域内GDPの18.6%に相当すると推計する。

 だが、違法経済活動の付加価値を算出するのは簡単な作業ではない。EUが12年に発行した文書では略語と複雑な数式を用いて、売春産業におけるアパートの賃料やドラッグ取引の輸送費や保管費といった「仕入れ」額の算出方法に関する指針が示されている。(c)AFP/Aurélia END