【6月11日 AFP】培養皿内で幹細胞を誘導し、光を感知する極小の網膜を作製することに成功したとの研究報告が10日、発表された。この成功で、退行性の失明の回復に向けた取り組みがまた一歩前進したという。

 研究を行った米ジョンズホプキンス大学医学部(Johns Hopkins University School of Medicine)などの科学者チームによると、今回の研究は、2006年に発見されて以来大きな関心を集めてきた「再プログラム化された細胞」の利用における重要な技術的功績の1つだという。

 同大のバレリア・カント・ソレル(Valeria Canto-Soler)氏は「網膜の構造組織を持つだけでなく、光を感じる能力も有する小型のヒト網膜を培養皿内で作製した」と述べている。

 研究は、眼球の最も内側にある、光を感受する網膜への損傷を回復するための移植用細胞作製という目標に向けた最新の進歩となった。

 幹細胞とは、人体のさまざまな組織に進化または分化する未発達の細胞で、2006年までは、この早期の胚から採取される幹細胞に大きな注目が集まっていた。ただ非常に多用途である一方、倫理面での問題では賛否両論となっていた。

 しかし、いわゆる人工多能性幹細胞(iPS細胞)が日本の研究で発見されて以降、状況は一変した。iPS細胞は、様々な組織や臓器の細胞に分化することのできる、再プログラム化された成熟細胞だ。

 今回の研究では、光を吸収して処理する特定の光受容細胞の複合層を形成するよう、iPS細胞を誘導して網膜に適した構造を作らせた。

 これらの細胞がどのようにして信号を脳に伝えるかを理解するためには、今後さらなる研究を重ねる必要がある。培養皿での実験では目覚ましい成果となったが、人間に対する臨床試験で有効性を確認してからでなければ、これらを医療行為に組み入れることはできない。

 カント・ソレル氏は、プレスリリースの中で「培養皿で作製した網膜は、脳が解釈して画像化できるような視覚信号を作り出すことができるだろうか。おそらくはできないだろう。ただ、これは申し分ない滑り出しだ」と述べている。(c)AFP