【6月9日 AFP】血液中の薬剤濃度に応じて赤や青の光を放つ分子を開発したとの研究論文が、8日の英科学誌「ネイチャー・ケミカルバイオロジー(Nature Chemical Biology)」に掲載された。将来的には、薬剤の過剰摂取予防のための検査を自宅で患者自ら行えるようになるかもしれない。

 論文を発表したスイスと米国の国際研究チームによると、この分子は血液との接触で発色するとされ、色の判定は普通のデジタルカメラでできるという。

 スイス連邦工科大学(Swiss Federal Institute of Technology)のルドルフ・グリス(Rudolf Griss)氏は、この分子について説明している動画の中で「プロセスは(専門的な)実験器具を全く必要とせず、非常にシンプル。そのため患者自身で実行できる」と述べている。

 がん、心臓病、てんかんなどの薬や臓器移植後の拒絶反応を防ぐための免疫抑制剤を服用している患者は、副作用、過剰摂取による中毒症や、用量が少なすぎた場合に薬剤が効かないなどのリスクにさらされる。さらに、薬剤の用量を監視するための検査は費用と時間がかかる上に、訓練を受けた専門家が実験室で行う必要がある。

 そのため、患者の自宅やベッドサイドで薬剤用量の監視を可能とする安価で簡単な方法が、特に医療インフラが不十分な遠隔地で長い間求められてきた。

 今回開発された分子は「患者の血流中の薬剤濃度を正確に測定でき、瞬時に結果が得られる」とグリス氏は説明する。

 このセンサー分子は、特定の薬剤の分子と結合するタンパク質受容体、対象の薬剤に含まれる分子に似た小型分子、発光酵素(ルシフェラーゼ)、発光酵素が発する光の色を変化させる蛍光色素分子という4つの要素で構成されている。

 周囲に薬剤が存在しない場合、分子系内のタンパク質受容体は薬剤に似た分子と結合する。この場合、発光酵素と蛍光色素分子も近くに引き寄せられ、全体として赤色を発する。

 だが血液中に薬剤が存在する場合、受容体は本物の薬剤の分子と選択的に結合し、薬剤に似た分子を引き離す。この時、蛍光色素分子も発光酵素から引き離され、全体は青く発色する。