【6月1日 AFP】昨年大規模な山火事に見舞われたオーストラリアのニューサウスウェールズ(New South Wales)州で農業を営むトニー・ナイト(Tony Knight)さんは、焼け野原になった牧羊地に紫色の花をつけた植物が一面に生え広がったのを見て、「ヒツジの餌に良さそうだな」と思ったという。

 しかしこの「見かけの良い植物」、実は同国に自生するマメ科の通称「ダーリングピー(Darling Pea)」で、栄養価の高い飼料になるどころか、ヒツジの神経系に悪影響を与える有毒物質を含んでいる。この草を食べたヒツジ数百頭が、精神や体に異常を来して死んでいった。

 クーナバラブラン(Coonabarabran)に近い農場でナイトさんがAFPに語ったところによると、食べ始めはヒツジの調子に問題はなく、むしろ体調が良くなるほどだが、慣れてくると薬物中毒のような様子を見せるようになるという。

 ナイトさんによると、飼育していたメリノ種のヒツジがこの草を食べるようになってここ数か月の間に800頭余りのうち100頭近くが死に、また隣の農場で同じく牧羊をしているナイトさんの親戚も、1万4000頭のうち800頭が被害に遭ったとしている。

 ダーリングピーが繁茂した原因は、5万4000ヘクタールに広がった昨年の山火事にあった。他の植物が焼き払われて生存競争がなくなったのに加え、柵が焼失してしまい、ヒツジをこの草の生えていない土地へ誘導することが困難になった。

 ナイトさんの話では、この植物の影響を受けたヒツジは一目で見分けがつくという。たいてい群れには入らず、空を見上げたり辺りを走り回ったりしており、ひどくなってくると後ろ脚が制御困難になるという。「ヒツジがヒツジらしく振る舞わないから、犬がひどく困惑しているよ」

 多年草のダーリングピーは2年以上枯れない。専門家によると、通常はわずかな株しか生えないが、干ばつや山火事があると土中に残った根から生え出して広範囲に広がることもあるという。牛にも影響を与えるというダーリングピーの同国での被害は5~10年に一度報告される程度で、通常は死ぬ家畜数も少ないという。(c)AFP/Glenda KWEK