【5月27日 AFP】ウクライナ問題をめぐり西側諸国との対立が続くロシアにとって、中国と結んだ天然ガス供給契約は、欧州市場の他にもガスを売る場所があるというメッセージを込めた象徴的な勝利となった。だが、一見すると大型契約のようにみえるが、ロシア経済や欧州市場に与える実際の影響はさほど大きくないとの見方がアナリストの間で広がっている。

 ロシアは21日、中国とガス供給契約を締結した。中国との交渉は過去10年にわたって行われた。ロシアの国営天然ガス独占企業ガスプロム(Gazprom)が2018年から30年間にわたって、中国石油天然ガス集団(China National Petroleum CorporationCNPC)にガスを供給する。供給量は年380億立方メートルに上り、契約総額は4000億ドル(約40兆円)。ガスプロムにとって史上最大の大型契約となった。

 しかし、英ロンドン(London)を拠点とする市場調査会社キャピタル・エコノミクス(Capital Economics)のアナリストは、「契約は象徴的な意味合いが強く、4000億ドルの契約からロシア経済が受ける利益は、大方の予想よりも小さい」としている。

 契約総額は大きいが、1年当たりでの換算では130億ドル程度。一方、ロシアの13年の輸出総額は5930億ドル(約60兆円)だった。年380億立方メートルの供給量についても、13年の欧州向け供給量(1600億立方メートル)をはるかに下回る規模であるため、キャピタル・エコノミクスは「形勢を一変させる可能性はほとんどない」とみている。

 ウクライナ問題で西側諸国と対立するロシアとしては、中国との契約締結により、重要な輸出市場を欧州からアジアへ移すことを示唆する狙いがあったが、当分は欧州がロシア産エネルギーの最も重要な市場であり続けると、キャピタル・エコノミクスは分析する。

 欧州は、ガス需要の25%程度をロシアからの供給に依存しており、ウクライナを経由する供給の停止を懸念していた。実際、06年と09年には、ロシアとウクライナのガス価格交渉がまとまらず、ロシアがウクライナ向けの供給を停止する事態にまで発展した。

 欧州諸国は再び、ロシア産ガスへの依存度を減らす方法を検討し始めている。だが、仏パリ(Paris)のエネルギー関連機関「IFP新エネルギー (IFPEN)のエコノミスト、ギー・メゾニエ(Guy Maisonnier)氏も、ロシアと中国との契約について、「ロシアから欧州に向けられた象徴的なサイン。ガス供給に関しては別の選択肢もあることを示すものだ」と語る。

 ベルギーの首都ブリュッセル(Brussels)のブリュッセル自由大学(Free University of Brussels)で教えるSamuele Furfari氏も「欧州のエネルギー安全保障への影響はないだろう。ロシアには大量のガスがあり、欧州だけでなく中国や他国にも供給する余力が十分ある」と説明した。