■新たな塩基対

 いまだ存在していないタンパク質を生み出すため、研究者らは20年間にわたって新たなDNAの塩基となりうる分子を探してきたが、この試みは多くの課題に直面した。

 新たな塩基対は、DNA内で既存の塩基とぴったりと収まり、タンパク質合成の第1段階である複製や転写を妨害しないものでなければならない。タンパク質合成の過程では、DNAの「ファスナー」が開かれ、その一部が複製された後で元通りに閉じる必要がある。

 また別の問題は、組み込まれた塩基対が細胞のDNA修復機構に攻撃され、取り除かれないようにすることだった。

 今回の研究では、既存のA-T塩基対とC-G塩基対に加え、人工塩基対のd5SICs-dNaMを含むプラスミドと呼ばれる環状のDNAを作成し、一般的なバクテリアである大腸菌に挿入した。

 だがここで問題が生じた。人工塩基対は自然界では存在しないため、これらの塩基対を複製するための成分が細胞内に存在していなかったのだ。

 研究チームはこれを解決するため、大腸菌の浮かぶ溶液に必要な成分を加えた。さらに大腸菌を遺伝子操作して、この必要成分を運ぶタンパク質が大腸菌の細胞膜を通過できるようにした。

 結果、プラスミドは順調に複製を繰り返し、複製の欠陥も非常に少なかった。また人工塩基対が遺伝子から排除されることもなかった。

 研究チームは、DNAの簡易版でありタンパク質の合成に役立つRNAに、人工塩基対を組み込むことを次の目標にしている。(c)AFP/Richard INGHAM