極右政党をやむなく受け入れるフランス
このニュースをシェア
【4月1日 AFP】先月30日に決選投票が行われたフランスの統一地方選挙で、極右政党・国民戦線(FN)が歴史的躍進を遂げたことについて専門家らは、仏国民の多くが依然、FNに敵対的でありながらも、やむなくこの反移民政党を主流に受け入れつつあることの表れだと分析している。
約3万6000の自治体の首長と議員を選ぶこの選挙で、FNは計1400議席超を獲得し、少なくとも11の自治体で首長に選出された。南仏のフレジュス(Frejus)には26歳の同党員の首長も誕生した。
かつてない成果で、一時は内部分裂もあり、08年の統一地方選では約60議席しか獲得できなかった同党の今後にとって大きな転換点となるだろう。
■浸透した政党としての存在感
この結果を受けて、FN党員が市長に選出されたボーケール(Beaucaire)市に対し、ベルギーの都市が即刻、姉妹都市関係を解消するなど、国外では激しい怒りが巻き起こっているが、当のフランス国民はまったくといっていいほどショックを示していない。
日刊紙パリジャン(Le Parisien)が先月31日に掲載した世論調査では、回答者の60%近くがFNを主流派政党とみなすべきだと考えている一方で、FNから首長や地方議員が選出されることは行き過ぎで「悪いこと」だと62%が考える、矛盾した結果が出た。
極右に詳しい専門家のジャンイブ・カミュ(Jean-Yves Camus)氏は、創始者のジャンマリ・ルペン(Jean-Marie Le Pen)氏が党首だったころには、ナチス(Nazi)・ドイツによるユダヤ人などの大量虐殺、ホロコーストの存在を繰り返し否定し、人種的憎悪をあらわにするその言動からタブー視されていた同党の「脱邪悪」を、娘のマリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)現党首が2011年の就任以来うまく進めてきたと指摘する。
さらにカミュ氏は、「仏国民の大半は、FNも政党とみなすべきだと考える一方で、不信感も根強く持っている。仏国民の大多数が当分、FN政権を望んではいないことは明白だ」と語った。
大方の見方では、FNの躍進を招いたのは、フランソワ・オランド(Francois Hollande)大統領の社会党政権に対する世論の不満に加え、高い失業率や低成長、国内治安といった問題を解決する力がないとみなされている既存の主流派政党に対する漠然とした怒りだ。
しかし95年や97年の地方選の際にFNが1200議席を獲得し、4自治体の首長に当選したときの衝撃と比べられるが、今回は過去ほどの驚きは感じられない。
仏国内の衝撃が少ないのは、父親のルペン氏のころとは党のイメージが変わったからだと、仏世論研究所(IFOP)のジェローム・フルケ(Jerome Fourquet)氏もいう。その上、当時からは20年が経ち、世論が「慣れてきた」側面もあると指摘する。「日々の積み重ねで受容されてきた感がある。党の横顔も以前よりずっと柔らかく、候補たちも短気ではない」
■「脱邪悪」は本当か?
マリーヌ・ルペン党首になり、FNでは、反ユダヤ的発言や人種差別的発言を捉えられた人物は誰でも徹底的に党から追放してきた。例えば10月には地方議会選候補が、黒人である仏法相をサルにたとえたため、この候補を除外した。
しかし、創始者ジャンマリ・ルペン氏が練り上げた党の方針のうち、最も物議を醸す部分は今も厳然としてある。
南仏ビトロール(Vitrolles)では97年に就任したFNの市長が「国籍特恵」を導入しようとした。これは両親のうち少なくとも1人がフランス国籍を有する場合、その家族に子どもが誕生するたびに770ユーロ(約11万円)を支給する案だった。マリーヌ・ルペン党首はこれは「誤りだった」と認めているが、「国籍特恵」の呼び方を変えた「国籍優先度」は、現在もFNの主要政策の一つだ。
また、フランス国内にいる移民の下に直近の家族が身を寄せることを認める現行法の改定も依然掲げているが、これは国際家族法に反する立場だ。さらに新たな移民への福祉給付や医療保険の制限も提案しており、主流右派の有力者たちからも賛同を得ている。(c)AFP/Marianne BARRIAUX