【3月20日 AFP】昨年11月にフィリピンを襲った超大型の台風30号(アジア名:ハイエン、Haiyan)──台風の直撃から数日後、エミリー・サガリスさん(29)はがれきが散乱した劣悪な環境で女の子を出産した。

 台風が直撃した当日、巨大な波が押し寄せるなかでエミリーさんは片方の手でフェンスにつかまり、もう一方の手で大きなお腹をおさえて飛んでくる金属や瓦礫から胎児を守りぬいた。

 そして3日後、エミリーさんは急ごしらえの医療センターと化した空港ビルのコンクリートの床の上で産気づいていた。割れたガラスや木の破片などが散らばっているなかで。

 出産に立ち会った軍医がAFPに語ったところによれば、抗生物質のないなかでの出産は、産後の感染症が心配された。しかし医療センターには、災害で重傷を負った人たちが殺到したため、エミリーさんと娘のベア・ジョイちゃんは、出産からわずか7時間後に「退院」を余儀なくされたという。

 記録的な被害をもたらした台風30号は過ぎ去った後も医薬品や食糧、水の不足により多くの人の命を奪った。犠牲者はこれまでに約8000人に上っている。それでもエミリーさんとベア・ジョイちゃんは、災害直後の苦難も乗り越えた。そして今、まだ状況は厳しいながらも安定した幸せな家庭を築こうとまい進している。

「ベア・ジョイが幸せで健康であることがうれしい。それが一番大事」と、エミリーさんは災害後に建てた小さな小屋で語った。太平洋に面し、台所も寝る場所も床の代わりに砂浜がむき出しになっているこの小屋で、娘と夫のジョベルトさん(29)の3人で暮らしている。

 小屋は、レイテ(Leyte)島東部タクロバン(Tacloban)の小さな漁師町サンホセに建てられた。以前、家があったのと同じ場所だ。台風と大波によってこの島のすべては破壊された。

 一家は今のところ、食べ物と水には困っていない。国内外の慈善団体からの寄付のおかげだ。健康状態も悪くない。満足とは言い難い環境で出産したエミリーさんも大事に至る事はなかった。