【12月14日 AFP】ウクライナでは、欧州連合(EU)加盟の前提となる連合協定の署名を見送ったビクトル・ヤヌコビッチ(Viktor Yanukovych)政権に対する抗議デモが続いているが、政権にとってデモ隊と同じくらい大きな脅威となる可能性があるのが新興財閥(オリガルヒ)だ。オリガルヒは公に自分たちの立場を表明することは控えているが、ウクライナの政治に大きな影響力を持っている。

 デモの発生と時を同じくしてヤヌコビッチ政権内部では、同氏が名誉党首を務める地域党(Regions Party)にかつてから忠実な大物実業家たちと、「ファミリー」と呼ばれる若手実業家の一派による激しい権力闘争が起きている。一連の抗議を通じてヤヌコビッチ政権を揺るがす恐れがあるのは前者、つまり「ファミリー」の台頭で苦い思いをしている従来のオリガルヒたちだ。

■従来のオリガルヒたちの静かな「反乱」

 これら「古い」オリガルヒたちは、政権への抗議を公然と支持することは控えている。だが、彼らが所有するテレビ局が、今回のデモについて比較的バランスのとれた詳細な報道を行っている点を見落としてはならない。同国のテレビ局「インテル(Inter)」と「ウクライナ(Ukraina)」はいずれもデモの報道にかなりの時間を割いている。インテルは化学業界の大物ドミトロ・フィルタシュ(Dmytro Firtash)氏が共同所有しているテレビ局だ。一方の「ウクライナ」は大きな成功を収めているサッカーチーム、シャフタール・ドネツク(Shakhtar Donetsk)のオーナーで、同国一の富豪といわれるリナト・アフメトフ(Rinat Akhmetov)氏が所有する。

 メディア評論家のナタリヤ・リガチェバ(Natalia Ligacheva)氏は「従来の財閥が所有するテレビ局は概してどの局も、デモについて詳細かつ客観性のある報道を行った。一部の財閥が国内の変革を支持しているのではないかと思わせる」と述べた。

 政権内部の緊張の高まりを示す出来事が他にもある。インテルTVの共同所有者としてフィルタシュ氏の盟友で、大統領の首席補佐官であるセルギー・リェボチキン(Sergiy Lyovochkin)氏が、警察が11月30日にデモを強制排除したことを受け、辞任を表明したのだ。しかし、辞任は承認されなかった。

 インテルTVはまた、世界ボクシング評議会(WBC)ヘビー級元チャンピオンで、現在は野党ウダル(ウクライナ民主連合、UDAR)の党首を務めるビタリ・クリチコ(Vitali Klitschko)氏のボクサーとしての成功と街頭での政治活動を重ねて繰り返し放送し、同氏への支持をあからさまに打ち出している。

 ロシアでは、反プーチン派の実業家で富豪のミハイル・ホドルコフスキー(Mikhail Khodorkovsky)氏の起訴と実刑判決が言い渡されたことをきっかけに、オリガルヒの政治力が骨抜きにされたが、ウクライナでは今も大物実業家たちが大きな影響力を振るっている。

 ウクライナのパイプライン業界の重鎮、ビクトル・ピンチュク(Viktor Pinchuk)氏はテレビ局ICTVなど自分が所有するメディア企業で、スタッフたちの声を抑えつけることを拒絶している。また、ピンチュク氏の義父にあたるウクライナの第2代大統領、レオニード・クチマ(Leonid Kuchma)氏は先週、元大統領3人による共同声明でデモへの支持を表明した。政治評論家のタラス・ベレゾベツ(Taras Berezovets)氏は「こうした動きは、従来のオリガルヒからの警告もしくは挑戦と解釈できるかもしれない」と述べている。