【12月1日 AFP】ロンドン(London)では自転車の死亡事故の現場に、花で飾られた白い自転車が置かれることがある。死者への哀悼と、他の人々への注意喚起という2つの意味を込めて。

 こうした痛ましい「幽霊の自転車」は、さらに増えるかもしれない。2週間のうちに6人も大型トラックやバスの下敷きになって亡くなったためだ。相次ぐ自転車事故にロンドン市民は衝撃を受け、当局には厳しい疑問の声が投げかけられている。

 ボリス・ジョンソン(Boris Johnson)市長は、コストが安く、環境に優しく、健康維持に一役買うとして、自転車に乗るメリットを強調しているものの、自転車利用者を守るための対策が不十分だとして市長に批判的な人たちもいる。同市長はLBCラジオに対し、最近の自転車事故に心が痛むと述べる一方、「人々が道路交通の法規に従わない限り、どんなに交通工学に投資しても命を救うことはできない」と明言した。

■自転車が走りにくい道路

 一連の死亡事故が引き金となり、市の交通インフラ不備を主張する自転車利用者と、信号無視といった愚行で危険を冒す自転車が多すぎると批判する人々の間で論争が続いている。ロンドンには自転車専用レーンが少ないため、命を危険にさらして大型トラックの横を走らざるを得ない、というのが自転車利用者らの言い分だ。

 夕方の渋滞時に自転車で帰宅していた大勢の一人で、プロダクトマネジャーのマット・レントン(Matt Renton)さん(28)は、ロンドンの道路は「非常に走りにくい」と語る。自動車のドライバーから見えやすいように黄色い蛍光ジャケットを着ているレントンさんは、「たとえばアムステルダム(Amsterdam)では自転車への対応が全く違う」と付け加えた。「(ロンドンで)私たちは邪魔者扱いされている」

 ロンドンで今年これまでに自転車事故で亡くなったのは昨年とほぼ同じ14人。今年1月からの自転車事故死亡者数が1桁のパリ(Paris)よりは多いが、アムステルダムやベルリン(Berlin)と同じ水準だ。それでも、最近の相次ぐ死亡事故を受けて、当局に対策を求める圧力は強まっている。

 ロンドンの警察は警察官2500人を動員して、運転マナーの悪い大型トラックや自転車の取り締まりを実施。ジョンソン市長は自転車に乗る際のヘッドホン着用禁止に賛成する可能性を示唆した。

 ラッシュアワーに市中心部から重量物運搬車(HGV)を締め出す案を検討するよう市長に求める声も改めて上がっている。HGVは2010年以降にロンドンで発生した自転車死亡事故の半数以上に関係し、24歳のロシア人女性を含む6人が死亡した最近の一連の事故にも、大型トラックやバス、長距離バスが絡んでいた。

■発言力高まる自転車利用者

 市は今年3月、今後10年間に10億ポンド(約17億円)を投じて自転車専用レーンなどのインフラを整備すると発表したが、緊急の対策が必要だという指摘は多い。ロンドンではこの10年で自転車利用者が66%増加し、名物の黒塗りタクシーや赤い2階建てバスと同様、自転車は今や路上で一般的に見かける交通手段になった。

 ストレッチ素材のウエアを着て無謀な運転をするとステレオタイプ化される自転車利用者だが、その発言力は強まっている。たとえば先日、短文投稿サイト「ツイッター(Twitter)」に「いまいましいサイクリスト」と書き込んだ女性に対して巻き起こった怒りも、自転車利用者が無視できない存在になっていることを物語っている。

 エマ・ウェイ(Emma Way)さん(22)は5月、田舎の車道で自転車と衝突し、自転車に乗っていた男性を「やっつけてやった」などと得意げにツイート。これがネット上で炎上したことで警察の知るところとなり、ウェイさんは衝突後に停車せず、事故を通報しなかったとして罰金を科された。ウェイさんは、問題のツイートを「人生で最も後悔している」とコメントしている。(c)AFP/Katy Lee