【11月20日 AFP】サハラ以南アフリカの大半に生息する大型のオオコウモリが、人間に感染する潜在的リスクがある2種類の動物ウイルスを保菌しているとする調査報告が19日、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に発表された。

 コウモリは、致死性のエボラウイルスをはじめとする動物ウイルスの既知の感染源だが、こうした動物ウイルスが種の壁を超えて他の哺乳類に感染する例が発生している。

 英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)のアリソン・ピール(Alison Peel)氏率いる獣医師チームが発表した論文によると、ストローオオコウモリ(学名:Eidolon helvum)は、この種のウイルス2種類を広範囲に運んでいるという。

 アフリカに最も広く分布するコウモリの種であるストローオオコウモリが、狂犬病ウイルスに類似したラゴスコウモリウイルス(Lagos bat virus)と、ヘニパウイルス(Henipavirus)属のウイルスの「宿主」になっていることは、これまでに知られていた。ヘニパウイルス属には、東南アジアやオーストラリアでブタやウマ、人間を死に至らせる原因となっているヘンドラ(Hendra)ウイルスやニパ(Nipah)ウイルスなどが属している。

 だが、これらのウイルスを保菌している可能性のあるコウモリがどのくらいの数、存在するのかに関しては現在までほとんど分かっていなかった。研究チームはこの問題を解明するため、12か国で2000匹以上のコウモリから血液と組織のサンプルを採取した。

 その結果、調査対象となったコウモリが遺伝子的に類似していることを発見した。これは、これらのコウモリが非常に広範囲で生殖活動を行っていることを裏付けている。

 ストローオオコウモリの行動範囲は、西はセネガルから東はエチオピアやタンザニア、南は南アフリカまで広がっており、5か月間で最長2500キロの距離を移動し、一晩で最長370キロを飛行する能力を持っている。群れは時に100万匹以上によって形成される。

 さらに研究チームは、サンプルを採取したコウモリの34%がラゴスコウモリウイルスを、42%がヘニパウイルスを保菌していることを発見した。このデータから、多くのコウモリが感染していると思われるにもかかわらず、発病しているように見えるコウモリが比較的少ない理由は不明だ。

 しかし、人間と接触する可能性がある野生動物種の間で広範囲なウイルス感染が起きていることは「公衆衛生面で潜在的に重要な意味」を持つと論文は述べている。

 人間は、コウモリの尿やふんを介したり、食肉用に捕獲・処理されたコウモリに触れるなどいくつかの状況で、このウイルスにさらされる恐れがあると論文は指摘している。

 現時点では、人間の感染例の記録はどちらのウイルスについても存在しない。しかし、アフリカの多くの地域では保健インフラが行き届いていないために、感染例が検知されずにいるためかもしれないと論文の著者らは懸念している。

 ピール氏によると、感染を避ける最善の方法は、多くの人が考えそうなこととは逆に、コウモリを単に放置しておくことだという。

 同氏は「よく考えずに、コウモリを殺処分したり分散させたりして、市街地から排除しようと対処する場合がある。だが、このような行動がコウモリにストレスを与え、(人間に)飛び火感染するリスクを増大させる恐れがあることを示唆する証拠がある」と指摘する。

「最も適切な対応は、調査研究を継続して行うことと、コウモリとの接触を避けるよう人々の認識を高めること、そしてコウモリにかまれたら傷口を徹底的に洗浄することだ」とピール氏は忠告している。(c)AFP