【11月19日 AFP】『マルコヴィッチの穴(Being John Malkovich)』などで知られるスパイク・ジョーンズ(Spike Jonze)監督の最新作『ハー(原題、Her)』が10日、ローマ映画祭(Rome Film Festival)のコンペティション部門で上映された。

 同作品は、コンピューターのオペレーティングシステム(OS)の女性の声に恋をした男性の愛を描くと同時に、テクノロジーの潜在力と限界にも迫る、感動的かつ機知に富んだ作品だ。

 ホアキン・フェニックス(Joaquin Phoenix)演じるセオドアは、ロサンゼルス(Los Angeles)に住む孤独な男性。そんな彼が、どんな質問にも答えてくれる新しいOSを手に入れた。セオドアはすぐに、その魅力的なサマンサの声に夢中になる。スカーレット・ヨハンソン(Scarlett Johansson)演じるサマンサの声は、肉感的な響きで、セオドアに「おはよう」「おやすみ」「メールが届いたわよ」と語りかける。

 時代設定は近未来。音声認識が一般的で、人々はイヤホンに向かってしゃべり続け、破たんした結婚で負った心の傷をテクノロジーが癒やしてくれる世界だ。だがテクノロジーにも埋められない溝はある。体の温もりを感じられる愛情表現ができないからだ。

 愛を確かめ合った夜、サマンサはセオドアに尋ねる。「あなたが眠るのを見ていていい?」セオドアは答える。「僕は君の夢を見るよ」

 サマンサに生身の人間を感じるようになるにつれ、セオドアの「危険な恋」は抑制がきかなくなる。だが映画は、このバーチャルな恋愛について道徳観を押しつけようとはしない。

 同作品はローマ映画祭で好意的に受け止められた。「テクノロジーが気持ちを伝える最良の表現方法だとは思わない。でもそれしか方法がないのだとしたら、何もないよりはましだ」と、ジョーンズ監督は記者会見で語った。

 さらに、テクノロジーよりロマンスに焦点を当てた理由を説明した。「すべてのショットは、2人のカップルとしてのシーンだ。私たちは皆、ありのままの自分を愛してもらいたいと思っているが、同時にそれを恐れている。恋に落ちるときはいつも、リスクを背負っているんだ」 (c)AFP/Laure BRUMONT