【11月18日 AFP】ドイツ南部ミュンヘン(Munich)にあるアパートの1室からナチス・ドイツ(Nazi)がユダヤ人らから略奪したとされる絵画1400点以上が見つかった問題で、部屋の所有者のコルネリウス・グルリット(Cornelius Gurlitt)氏(80)はドイツ誌とのインタビューで、何の抵抗もせず自主的に絵を手離す気はないと断言した。これにより、問題の早期解決は難しくなった。

 17日の独週刊誌シュピーゲル(Der Spiegel)掲載のインタビューでグルリット氏は、一連の絵画はナチス体制下のドイツで有力な画商だった父親が合法的に入手したもので、所有権は息子の自分にあると主張。「自主的には一枚たりとも手離す気はない」「問題が早く解決され、私の絵が手元に戻って来ることを望む」と述べた。

 グルリット氏はインタビューの中で、独当局からかけられた脱税と横領の疑惑については、無実を証明するため「十分な」書類を提示したと説明。これまで犯罪に手を染めたことはなく、「たとえ犯罪に関与していたとしても時効が適用されるだろう」と語った。その上で、自宅を出る姿や買い物中の様子をカメラマンに追われるなど注目を浴びたことにショックを受けたと述べ「なぜ、そんなに注目するのか」「私は絵画たちと暮らしたいだけ」などと訴えている。

 父親のヒルデブラント・グルリット(Hildebrand Gurlitt)氏は、ナチスが押収した絵画を売りさばいて国際通貨を獲得していた有力な画商の一人。息子のグルリット氏はコレクションの中から幾つかの作品を売って生活費の足しにしていたが、大半は手つかずだった。

 見つかった絵画にはパブロ・ピカソ(Pablo Picasso)、アンリ・マチス(Henri Matisse)、マルク・シャガール(Marc Chagall)、ピエール・オーギュスト・ルノワール(Pierre-Auguste Renoir)、ウジェーヌ・ドラクロワ(Eugene Delacroix)の作品などが含まれており、現在は極秘の場所に保管されている。ドイツ当局は絵画の所有権を不正に主張する人々が殺到するのを避けるためとしてこの事件を表沙汰にしていなかった。見つかった絵画の時価総額も明かにされていない。

■ドイツ政府が変換交渉か

 一方、今月初めにこの絵画コレクションの発見を最初に報じ、その価値は総額10億ユーロ(約1330億円)相当としている、独週刊誌フォークス(Focus)は17日、アンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相のスタッフとバイエルン(Bavaria)州当局が、グルリット氏との取引を求めていると報じた。絵画の所有権を譲渡すれば、グルリット氏に対する犯罪捜査をやめる用意があるとしている。

 だがグルリット氏はシュピーゲルに対し、ナチス体制下で美術品を押収されたり強制的に手離さざるを得なくなったりしたユダヤ人の個人所有家から、父親が直に絵画を購入した事実はないと指摘。さらに、父親は、ロシア軍の侵攻や連合軍の爆撃から「絵画を守った」と主張した。その上で、ドイツ政府の遺失美術品のウェブサイト「www.lostart.de」に絵画コレクションの写真が掲載されていることについて、「なぜ私の個人所有物を掲載しているのか。返還しろ」と涙をこらえ訴えた。(c)AFP/Deborah COLE