【11月14日 AFP】英ロンドン(London)のアパートの1室で2010年に英秘密情報部(Secret Intelligence ServiceSIS)、通称「MI6」の出向職員の男性が旅行カバンに詰められた裸の変死体で見つかった事件で、ロンドン警視庁(Scotland Yard)は13日、事故死の可能性が高いと発表した。

 この事件は、通信傍受機関である英政府通信本部(GCHQ)の暗号解読員で対外情報機関MI6に出向していたガレス・ウィリアムズ(Gareth Williams)さん(当時31)が2010年8月、ロンドンの高級住宅地ピムリコ(Pimlico)地区にあるアパートの部屋の浴室で全裸で死亡しているのが見つかったもの。腐敗した遺体は浴槽の中に置かれた赤いノースフェイス(North Face)社製の旅行カバンの中に入った状態で、カバンには外から南京錠がかけられていた。

「カバンに入ったスパイ」事件として話題を呼んだ事件の謎について、ロンドン警視庁は13日、改めて捜査を行った結果、ウィリアムズさんは他殺ではなく、自分でカバンの中に入ったと結論付けたことを明らかにした。

■指紋の謎は不明のまま

 ロンドン警視庁のマーティン・ヒューイット(Martin Hewitt)警視監補は、記者会見で「捜査の結論として、事故だったと考えている」とコメント。ウィリアムズさんの死は「職務とも全く無関係だったと確信している」と述べた。

 ヒューイット氏は、南京錠からウィリアムズさんのDNAが検出されなかった点や、浴槽に指紋が一切残っていなかった点など「奇妙な」要素が幾つか残っていることは認めている。しかし、浴槽周辺からは数年前の指紋とDNAの痕跡が採取されるなど、アパート内には証拠隠滅を図った形跡はなかったという。

 一方、ヒューイット氏はウィリアムズさんがボンデージ(拘束)や脱出術に関心があったと伝えられている点について、死因との関連があるかどうかは言及を避けた。

■どうやって鍵をかけたのか?検視結果との矛盾

 今回の警察発表は、昨年公表された検視結果とは相いれない内容だ。フィオナ・ウィルコックス(Fiona Wilcox)検視官は2012年5月、ウィリアムズさんの死因は窒息死か毒殺の可能性が高いと結論付け、「恐らくは別の人間が関与している」と指摘していた。

 ウィルコックス検視官によると、調査を依頼した複数の専門家は何度試しても、現場にあったものと同一のカバンの中に入って自ら南京錠をかけることができなかったという。専門家の1人は、「奇術師のハリー・フーディーニ(Harry Houdini)でも、抜け出すのは難しいだろう」と話したという。

 ウィリアムズさんの遺族は12日、ウィルコックス検視官の見解を信じるとの声明を発表した。

 しかしヒューイット警視監補は、男性がカバンの中に自分を閉じ込めるという行為が「理論的には可能」だという点で警察は納得していると述べるとともに、ウィルコックス検視官もこの見解を受け入れたと強調している。

 この事件は、ウィリアムズさんがMI6で働く暗号解読員だったことから、職務をめぐって殺害されたのではないかとの激しい論争を巻き起こした。これまでのところ、事件に関連した逮捕者は出ていない。(c)AFP/Katy Lee