【11月8日 AFP】ロシア正教会の聖堂でウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領を批判する歌を演奏してフーリガン行為で有罪となり服役中の女性パンクバンド「プッシー・ライオット(Pussy Riot)」のメンバー1人が、10月中に移送されたはずの刑事施設にいないことが判明し、消息が案じられている。

 先月から消息が分からなくなっているのは服役中のバンドメンバー2人のうちの1人、ナジェージダ・トロコンニコワ(Nadezhda Tolokonnikova)さん。ロシア中部の刑務所に収容されていたが、所内での虐待を訴えてハンガーストライキを行ったため、10月22日にシベリア(Siberia)にある別の刑事施設に移送されたことになっている。ロシアの人権監視機関は前週、トロコンニコワさんは移送途上にあり、身柄は安全だと発表した。

 しかし、トロコンニコワさんの夫のピョートル・ベルジロフ(Pyotr Verzilov)さんが7日、当局から移送先だと知らされたシベリア連邦管区クラスノヤルスク(Krasnoyarsk)の施設を訪れたところ、トロコンニコワさんはいなかったという。

 危機感を抱いたベルジロフさんは、マイクロブログのツイッター(Twitter)への投稿で、「(シベリア連邦)管区の刑事施設当局から『トロコンニコワはここにいないし、いつ到着するのかも知らない』と言われた。ナージャ(ナジェージダの愛称)との連絡が途絶えてから、もう19日になる」と不安をあらわにした。また「雪、雪、雪、零下20度。このどこかに彼らがナージャを隠している」と書き込み、雪深い施設周辺の写真も投稿した。

■刑務所内での虐待的処遇に抗議

 プッシーライオットのメンバーは昨年、大統領選を控えた首都モスクワ(Moscow)の救世主ハリストス大聖堂(Christ the Saviour Cathedral)でプーチン大統領を批判する歌を演奏し逮捕された。トロコンニコワさんとマリア・アリョーヒナ(Maria Alyokhina)さんはフーリガン行為で有罪となったが、この判決は世界的な非難を巻き起こした。

 2人は来年3月までの刑期で服役中だが、トロコンニコワさんは収監後、ロシア国内のメディアに書簡を送り、刑務所内では24時間体制の「奴隷労働」や殴打が横行し、衛生設備もないなど虐待に近い処遇だと訴えていた。トロコンニコワさんは抗議のハンストを始めたが体調を崩し、所内の医療施設で点滴治療を受けるようになった後、シベリアへ移送されたとされる。

■公表されない移送先

 当局は移送先を公表していないが、夫のベルジロフさんは信頼できる情報源から、シベリアのニジニ・インガシ(Nizhny Ingash)地区にある「50番」という刑事施設に送られたと知らされたと述べている。

 ロシアでは当局が受刑者を移送した場合、移送後10日間はその家族に所在を知らせなくても良いとされている。また移送にかける期間にも法的規定がない。

 トロコンニコワさんの弁護団は、トロコンニコワさんが「長期間にわたって移送中とされる」可能性があると指摘。トロコンニコワさんに下された判決と刑の取り消しを求める法的手続きを進めている。

 一方、国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)も今週に入り、「トロコンニコワさんの身の安全と健康に重大な懸念がある」と表明し、抗議行動を呼び掛けている。(c)AFP