世界の首脳、スマホのセキュリティーは大丈夫?
このニュースをシェア
【10月31日 AFP】世界各国の首脳たちは、公務では暗号化技術付きの携帯電話や安全な通信回線を使用しているが、日常生活で普通のスマートフォン(多機能携帯電話)を使う誘惑には勝てないようだ──その結果、盗聴されやすくなっている。
ドイツのアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相は23日、米政府がメルケル首相の携帯電話を盗聴していたという疑惑について、バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領に回答を求めた。だが米政府は過去においてメルケル首相の携帯電話を盗聴していたかどうかは明らかにせず、オバマ大統領は今後そのようなことを絶対にしないと約束した。
米政府による盗聴疑惑に欧州で怒りが渦巻く中、各国政府高官がiPhone(アイフォーン)やブラックベリー(BlackBerry)を個人的に利用することの危険性に注目が集まっている。
ドイツの日刊紙ターゲスシュピーゲル(Der Tagesspiegel)は政府筋の情報として、盗聴されたといわれているメルケル首相の携帯電話は首相としての公務で使う暗号化されたものではなく、キリスト教民主同盟(CDU)党首としてメルケル氏が使っていた携帯電話だったという。その一方で、盗聴されたのは、安全性が高いとされている公務用の携帯電話だったと報じている独メディアもある。
独政府は数か月前、特別なセキュリティー機能を備えた「ブラックベリーZ10」を1台2500ユーロ(約34万円) で一括調達した。
フランスでは、政府高官は仏防衛・電子機器大手タレス(Thales)が政府専用に開発した暗号化機能付きの携帯電話機Teoremを使用している。1台の価格は3300ユーロ(約46万円)とみられる。Teoremは国家情報通信システム安全庁(ANSSI)の認可を受けており、「極秘情報」の送受信に使用することも認められている。また一部高官は、厳重なセキュリティー対策のなされたイントラネットや省庁間有線電話・ファクシミリ網にアクセスすることができる。
しかし、こうしたシステムは往々にして制限があったり時間がかかったりする。例えばTeoremの場合、セキュリティーコードのために電話をかけるのに30秒かかる。通信のスピードがますます速くなる現代において、その遅さにストレスを感じる高官もいる。
■プライベートでは「自分だけは大丈夫」
米中央情報局(CIA)の元職員、エドワード・スノーデン(Edward Snowden)氏の暴露によって、米政府による欧州での情報収集活動の広がりが徐々に明らかになりつつあった8月19日、フランスの首相官邸は各省庁に向けたメモで、データ保護の重要性について念を押している。
メモには、「許可されていないスマートフォンを使って重要な情報をやり取りしてはいけない」ことが明記されている。メモはその上で、秘密に指定されていない情報でも、慎重な取り扱いを要する情報は全てANSSIが認可したセキュリティーシステムを搭載した端末から送信しなければならないと述べている。
暗号化技術を搭載した携帯電話を提供している仏企業Cryptofranceのロベール・アブリル(Robert Avril)氏は、政治家や企業重役、弁護士、ジャーナリストなど、暗号化技術を搭載した携帯電話の所有者たちが他にも「少なくとも1台はiPhoneまたはブラックベリーを持っている」と述べる。同社は2008年に最初の暗号化技術付き電話を発表した。
いくら講習会に参加しても、いったん自宅に帰ると誰もが「ハッキングは自分以外に起きること」と考えるのだという。「私たちはクライアントに対し、仕事関係の通話やメールに普通のスマートフォンを使ってはいけないと言い続けている」と、アブリル氏は述べた。
政治家はとくに説得するのが難しい、と情報セキュリティー専門家に交流の場を提供する非営利団体CLUSIFのエルベ・ショアー(Herve Schauer)氏は言う。「政治家たちは暗号化された電話を使う必要があるということを理解するのに苦労している。危険性に気付いていないのだ。彼らはいくつも電話を持っていて、グーグル(Google)やGメール(Gmail)を使うのに慣れている」
複数のサイバー犯罪専門家によれば、特にニコラ・サルコジ(Nicolas Sarkozy)前大統領はTeoremを使いたがらず、フランソワ・オランド(Francois Hollande)現大統領も私用のスマートフォンを使い続けているという。
一方で大西洋の反対側では、オバマ米大統領が就任後数日のうちに、ハッキングされたり大統領の所在が特定されたりする恐れもあるブラックベリーを使い続けることを大統領警護隊(シークレットサービス、US Secret Service)に納得させた。いずれ、大統領の書いた内容をもとに議会で追及されるかもしれないと懸念する声も上がった。
大統領はよくプライベートで、ホワイトハウス(White House)の「バブル」のせいで一般の人たちと触れ合ったり、外の世界から生の情報を入手したりすることが難しいと、愚痴をこぼしている。だからブラックベリーはそんな「監禁」状態から逃避するための手段なのだろうと、側近たちは言う。
ホワイトハウスは、大統領の私的なメールアドレスは少数の高官と親しい友人しか知らないし、大統領の通信に用いられている暗号化装置について詳しく明かすことはないとしている。
とはいえ、オバマ氏が送信するメールは、米大統領任期中の記録の管理や保管などについて定めた1978年制定の大統領記録法(Presidential Records Act)の対象になるとみられる。 (c)AFP/Katia DOLMADJIAN