【10月23日 AFP】2009年にソマリア沖で米貨物船マースク・アラバマ(Maersk Alabama)号が海賊に襲撃され、船長が人質になった事件を映画化した『キャプテン・フィリップス(Captain Phillips)』が11日に米国で公開された。映画のモデルとなったリチャード・フィリップス(Richard Phillips)船長は、作品の出来をたたえる一方、実際の状況は「もっとひどかった」と語った。

 海賊に人質に取られたフィリップス船長は、米海軍特殊部隊「シールズ(SEALs)」に救助されるまで、数日間を救命ボートの中で過ごした。「映画はとてもよく描かれていた。だが実際はもっとひどかった。起きたことすべてを表現することはできないよ」と、船長は語った。「重要な部分はちゃんと描かれていたと思う」

■トム・ハンクスの演技を絶賛

 船長は自分の役を演じた俳優トム・ハンクス(Tom Hanks)の演技について、「素晴らしかった」と大きな称賛を送った。「彼の目を見ているだけで、恐怖と、敵に立ち向かおうとする勇気が伝わってくる」

 またハンクスと何度か対面したことも明かし、オスカーを2度も受賞している大物俳優だが、「いたって普通の男」のように感じたと付け加えた。

■恐ろしい記憶

 人質として囚われていた恐怖の時間を振り返り、フィリップス船長は「冷静に人間で居続けることが大事だと思った。海賊に自分を人間だと思わせないといけない。肉の塊ではなくて」と語った。「小さな救命ボートに閉じ込められたら、良くも悪くも関係が生まれるよ。お互いに笑い合ったこともあったし、罵り合ったこともあった」

 では、映画は船長に悪夢のような日々を思い起こさせたのかというと、そうでもないようだ。「もう過去のことは忘れて前に進んでいる。問題ないよ」

 あの人質事件は現実には、映画ほど歯切れのいいものではなかった。多くの船員が、海賊がいる海域に近づくなと船長に警告したのに無視され、自分たちの命が危険にさらされたと、フィリップス船長を訴えた。船長は船員たちと船会社の間の訴訟の証人になっており、審理は12月から始まる予定だ。

「私たちは訴訟社会に生きているから、誰でも自分の思いは訴えて当然だ」と、フィリップス船長は語った。ただし、彼は船会社に「落ち度はなかった」と思うと付け加えた。

 船長に対してはいろいろな声が上がっているが、1つだけ確かなことがあると、彼は言う。「自分をヒーローだとは思っていない」(c)AFP/Veronika OLEKSYN