宮崎駿氏に続け、険しい道を行くアジアのアニメーターたち
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【10月22日 AFP】9月に引退を宣言して映画界やファンたちに衝撃を与えたアニメーション映画の巨匠、宮崎駿(Hayao Miyazaki)監督(72)──同監督に続こうとアジアから次世代アニメーション作家たちが表舞台に登場してきている。だが、彼らが宮崎作品と互角の興行成績を収めるのは容易でないと業界関係者らは語る。
零式艦上戦闘機(零戦)の設計者をモデルにその半生を描いた引退作『風立ちぬ(The Wind Rises)』は7月の公開以来、日本国内で推計115億円近くを稼ぎ出した。世界全体での興行収入が2億7490万ドル(約270億円)に達した『千と千尋の神隠し(Spirited Away)』(2001年)や、2億3520万ドル(約230億円)の『ハウルの動く城(Howl's Moving Castle)』、2億0180万ドル(約200億円)の『崖の上のポニョ(Ponyo)』などの成功を追う勢いだ。
東京を拠点に活動する映画評論家、マーク・シリング(Mark Schilling)氏は、「第2のミヤザキは登場しない、というのが当地の見方だ」と語る。『もののけ姫(Princess Mononoke)』の制作過程やセル画などを収録した「ジ・アート・オブ もののけ姫(Princess Mononoke: The Art and Making of Japan's Most Popular Film of All Time)」を英訳している同氏によれば、アジアのアニメ市場を席巻するのは子供向けアニメ映画で、米アカデミー賞を受賞した宮崎作品『千と千尋の神隠し(Spirited Away)』のような大人の観客を視野に入れた映画ではない。また、宮崎作品と同様に労力を要する大勢のアニメーターらによる手描きスタイルアニメ映画の観客数は、先細りが不可避とみられている。
■小さなアニメ市場に向き合う
小さな市場規模にも、たじろがないのは、今月初旬に開催された釜山国際映画祭(Busan International Film Festival、BIFF)で2作目のアニメ映画『サイビ(The Fake)』が評論家に好評だったヨン・サンホ(Yeon Sang-Ho)監督(35)だ。ヨン監督はAFPの取材に「大人向けのアニメ映画は、現実として多くはない。だから製作費をつぎ込んでも、公開にこぎつけるのは依然として難しい。私のようなアニメーターは、より多くの作品を制作して観客になじんでもらわなければ」と語った。
ヨン監督のアニメは、CGと手描きを合成した超リアルな描画が特徴だ。そのデビュー作『豚の王(The King of Pigs)』は、2011年の釜山国際映画祭で3つの賞を獲得し、評論家からも称賛されたが、興行収入では制作費15万ドル(約1470万円)を回収できなかった。
それでも第1作目で得た手応えと、宮崎監督や『ヒミズ(Himizu)』で知られる漫画家、古谷実(Minoru Furuya)氏らから得たインスピレーションを踏まえ、ヨン監督はこれからも自分自身のスタイルを貫くと固く決意している。
■重いテーマを子どもの視線で
同じく釜山国際映画祭で評論家とファンの双方から注目を浴びたのが、韓国のハン・ヨウル(Han Yeo-ul)監督(23)の『The Child Who Draws an Octopus(タコを描く子ども)』だ。この映画は主要賞の1つ、韓国短編コンペティション部門に出品された唯一のアニメ作品。子どもの切り絵のような作風ながらも、扱っているテーマは重い。「アニメーションならば、子ども時代の無邪気さを捉えられる。同時に子どもの目から見た世界を描きながら、重い問題に目を向けることもできる」とハン監督は語る。
ハン監督も大人向けアニメーション市場は小さいと認める。だが、その一方で、市場が小規模であることが観客と直接コミュニケーションできる自由につながっているという。「他の形態の映画より(アニメーションの方が)自分を、より表現できる。作品は、とても個人的なものだから」(c)AFP/Mathew Scott