【10月18日 AFP】全身ヌードのボディペインティング、男根状のオブジェ、リチャード・ニクソン(Richard Nixon)への手紙──これら作品を手掛けてきた草間彌生(Yayoi Kusama)さんほど多方面に才能を発揮する、エキセントリックな美術作家はそう多くないだろう。草間さんは、米ポップアートの巨匠、故アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)と同世代で80歳を超えた今も活躍を続けている。

 草間さんは約40年前に米国から帰国し、その数年後から精神科病院で暮らすことを選択した。それから36年が経過した今でも新しい作品を生み続けており、2012年には英ロンドンの美術館、テート・モダン(Tate Modern)で回顧展が開催された。回顧展を企画したフランシス・モリス(Francis Morris)氏は、草間さんについて「自分を何度も、何度も作り変えることができる作家」と称する。

 現在、草間さんの作品は、ブラジル・リオデジャネイロ(Rio de Janeiro)のブラジル銀行文化センター(Centro Cultural Banco do Brasil)で11日に開幕した個展「Obsession Infinita(無限の強迫観念)」で展示されている。同展は14年1月までの開催予定。

■いたる所に水玉模様を描く

 長野県松本市生まれの草間さんは、日本社会の束縛に息苦しさを感じ、自らの居場所を1960~70年代の米ニューヨーク(New York)に見つけた。若い米国人たちは草間さんの自由な精神性を称賛したが、視覚的に過激な作品に対する日本での評価は散々たるものだった。帰国した際のテレビ・インタビューでは、草間さんが服を脱ぎだしたために放映が中止されたこともある。

 草間さんは幼少のころから、精神疾患があることを自覚していたという。しかし治療とはいわずとも、自分の強迫神経症を扱う方法を作品制作の中に見出した。

 家具や自分の周囲、さらには自分の体にまで、草間さんにはいたる所に水玉模様を描いた。草間さんは以前、「医師の元に相談へ行き、絵をたくさん描いているというと、とても良いことだと言われた」と話していた。

 草間さんの壮観かつ、ミニマル(最小限)でシュールレアル(超現実的)な作風は瞬く間に名声を得ることになった。過激に性的な要素が含まれている多くの作品には、疾患の影響により終わりのない水玉模様が強迫的に現れる。このことからメディアは草間さんのことを「水玉の女王」と命名した。モリス氏によれば、相当の「自己宣伝家」である草間さんはこの呼び名を気に入っているという。

 水玉同様、草間さんがこだわっているのが、ヒッピー世代の到来とともに一躍ファンを引き付けた公共の場でのヌードだ。しかし時にウォール街(Wall Street)や国連(UN)本部といった保守的な場所で行った「ヌードイン」は古い世代に大きな衝撃を与えた。

 ニューヨークのセントラルパーク(Central Park)で「不思議の国のアリス」を題材にしたヌードイン、そしてニューヨーク近代美術館(Museum of Modern ArtMoMA)でヌードインを行った後の1969年8月、米紙デイリー・ニュース(Daily News)は見出しで「これは芸術か?」と問うた。

 草間さんは政治に対する情熱も示してきた。ベトナム戦争は重く心にのしかかり、1968年にニクソン米大統領(当時、在任:1969~1974年)に宛てた「Open Letter to My Hero Richard M. Nixon」と題する公開書簡は、リオの回顧展でも展示されている。この中で草間さんは「暴力を使って暴力を根絶することはできません。優しく、優しくしてください、親愛なるリチャード。あなたの雄々しい闘争心をどうか鎮めてください」と書いている。

■近年の作品でも踊る水玉

 ヒッピー運動が最盛期を過ぎた1973年、草間さんは日本への帰国を決意。そして77年に精神科病院での生活を選んだ。「草間さんは今も人をアートで包む力を持っている。施設での生活が彼女を守っています。施設での穏やかな日常は整然としていて平和なのです」とモリス氏は語る。

 草間さんの作品は時と共に変化してきており、いつでも『現代性』を有しているとモリス氏は強調する。「性や政治(の面影)はもはや見られない。以前(帰国時)は、メディアも非常に否定的だった日本で、彼女は今や大人気だ」

 近年の作品でも水玉が踊っている。リオで出展されている作品「I'm Here, but Nothing」(2000年)は、家具から誰も見ていないテレビ、壁面まで一面をカラフルな水玉が覆った部屋だ。

 また、アッサンブラージュ(さまざまな物を寄せ集めて制作した立体作品)の先駆者、ジョゼフ・コーネル(Joseph Cornell)やウォーホールと一緒に写った写真も展示されている。草間さんはニューヨークの雑誌に対し、性は今も自分にとって主要なテーマだが、性自体に興味はあるのではなく、その芸術的な描写に関心があるのだと述べている。

 モリス氏は「彼女は今も根っからのフラワーチルドレンだ。ただし、今はショックを与えることに夢中になってはいない。政治闘争からは離れたが、『武器』を持ち変え、現実世界と相互に作用し合う作品を使って人々を幸福にしている」

(c)AFP