【10月10日 AFP】水俣病の原因となった水銀の取り扱いを規制する国際条約「水俣条約(Minamata Convention on Mercury)」が10日、熊本市で開かれた国連環境計画(United Nations Environment ProgrammeUNEP)主催の国際会議で採択された。

 水銀を国際的に規制する条約は世界初。条約名は、戦後の高度経済成長期にあった1950年代の日本で、工場排水に混ざって海に流出した水銀を含む魚介類を住民らが摂取し水銀中毒症が多数出た熊本県水俣市にちなんで命名された。

 水俣条約では、2020年をめどにした温度計など水銀使用製品の段階的廃止や、15年以内の水銀採掘廃止などを定めている。会議に出席した約140か国・地域の政府代表が10日中にも条約に署名する運びだ。条約の発効は50か国が批准を終えた後となり、UNEPでは発効まで3~4年を要するとみている。

 一方、環境団体は、条約に水銀の工業利用や小規模な金採掘場での水銀使用に関する規制が盛り込まれなかった点への懸念を表明している。

 UNEPの2012年の報告によると、途上国を中心に化学物質の野放図な使用による健康・環境被害が広がっている。こうした国々では、化学物質の取り扱いや破棄で適切な安全対策が取られていない。UNEPでは、「揮発性有機化合物」の粗雑な管理状況が世界経済に及ぼす損失額は2363億ドル(約23兆2000億円)と見積もっており、このうち220億ドル(約2兆1500億円)が水銀による健康・環境被害だという。

■首相の「克服」発言に被害者反発

 一方、安倍晋三(Shinzo Abe)首相は9日、会議の開会式典に寄せたビデオメッセージで、途上国の環境汚染対策として2014年~16年に総額20億ドル(約2000億円)の支援を行うと発表した。

 しかし、メッセージの中で首相が「日本は水銀による被害を克服した」とする趣旨の発言をしたことから、今も多くの人が苦しむ水俣市では反発の声も上がっている。水俣病認定患者の緒方正実(Masami Ogata)さん(55)は「加害者である国が、克服と断言してはならない。水俣病はまだ克服の途上にある」と批判した。(c)AFP/Kyoko HASEGAWA