カンヌ最高賞のレズビアン映画、主演女優が監督批判
このニュースをシェア
【10月8日 AFP】女性同士の恋愛を描き、今年のカンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)で最高賞のパルムドール(Palme d'Or)を受賞した映画『アデル、ブルーは熱い色(Blue is the Warmest Color)』が、今週フランスやベルギーなどで公開される。ところがここにきて、セックスシーンの撮影をめぐり監督と主演女優らの間で騒動が持ち上がっている。
『アデル、ブルーは熱い色』は、上映時間が約3時間の長編映画。今年のカンヌ映画祭でセンセーションを巻き起こし、主演したアデル・エグザルコプロス(Adele Exarchopoulos)とレア・セドゥ(Lea Seydoux)を一躍スターの座に押し上げた。
映画祭会場では、2人はいつも笑みを絶やさず、チュニジア系フランス人のアブデラティフ・ケシシュ(Abdellatif Kechiche)監督とともにカメラの前でポーズを取った。
映画祭で審査員長を務めた米映画監督のスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)氏は、この映画を「奥の深い恋愛映画」と絶賛。審査員は主演女優2人の輝いた演技と、登場人物を生き生きと描く監督の手法に「完全に魅せられた」と語った。
■カンヌでの笑顔から一転、主演女優が不満を口に
しかし、映画祭からしばらく経つと、この映画を取り巻く状況が変わり始めた。両主演女優から、ケシシュ監督の撮影方法に対する不満が聞かれるようになったのだ。
米メディアサイト「デーリー・ビースト(The Daily Beast)」が9月1日に掲載したインタビューでは、エグザルコプロスは、ケシシュ監督が求める程度まで役にのめり込む心の準備ができていなかったと話した。「撮影が始まってから気づいたの。監督は私たちが全てを与えることを望んでいるんだって。大抵の人は監督がしたことをさせようなんて思わない。もっと私たちを尊重してくれるわ」
セドゥは、映画に出てくる10分間のセックスシーンは、撮影に丸々10日間かかったと不満を漏らした。
また、両女優はけんかのシーンも非難。エグザルコプロスは、「ひどい経験だった。彼女(セドゥ)が私を何度もたたいたの。監督は『たたけ!もっとたたけ!』と叫んでた」と語った。
■「監督は、なりふり構わない演技を求めた」
両主演女優の不満は、公開を目前に控え、再びメディアをにぎわせるようになった。セドゥはテレビ雑誌「テレラマ(Telerama)」のインタビューで、撮影現場は「ひどいもの」で、この映画を公開すべきではないと思うと語った。
「この映画を公開すべきじゃないと思う。あまりに汚れてしまったわ。パルムドール受賞は、ほんの一瞬の幸せなひと時で、その後は屈辱を感じ、名誉を傷つけられた。自分が否定されたような気もした。呪われた人生を生きているようなものよ」
エグザルコプロスはフランスのテレビ番組で、ケシシュ監督のことを「苦悶の天才」と評したが、監督の要求は両主演女優を傷つけたと語った。「時々精神的におかしくなったわ。監督は私たちがなりふり構わず演技することを求めたけど、そうするのは大変だった」
■批判への反論
一方、ケシシュ監督はこれらの発言に対し、「神聖な職業に対する敬意を欠いている」とコメントしている。
また、ケシシュ監督の映画に出演したことがある仏女優アフシア・エルジ(Hafsia Herzi)は、仏映画雑誌「ソーフィルム(So Film)」が掲載した記事の中で、「(監督は)とても人間的な人よ。経験の浅い人たちにもチャンスを与えてくれる」と語り、ケシシュ監督を擁護した。
批評家で映画史専門家のジャン・ミシェル・フロドン(Jean-Michel Frodon)氏によると、この映画は監督と主演俳優らのぎくしゃくした関係が明るみに出てしまった映画の部類に入る。両者の間に生じるこうした緊迫感は、俳優が自分を守ったり、コントロールすることに疲れつつカメラの前で演技したりする時に現れるという。
カンヌ国際映画祭でディレクターを務めるティエリー・フレモー(Thierry Fremaux)氏は、映画『シャイニング(The Shining)』の撮影中に主演のジャック・ニコンルソン(Jack Nicholson)とスタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick)監督の間にいざこざがあっても、映画を見た観客はそれに気づかなかったことを例に挙げ、「ニコルソンは、撮影現場はひどかったが今ではキューブリック監督に感謝してると言っている」と語った。(c)AFP/Dominique AGEORGES