【10月1日 AFP】同性愛者を公言する英俳優スティーブン・フライ(Stephen Fry)氏は「悪の運び手」で、同性愛は性倒錯であり、ロシア人の価値観を守るために闘うウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の存在は神に感謝すべきこと──。ロシアの地方議員、ビタリー・ミロノフ(Vitaly Milonov)氏はこう考えている。

 ロシア第2の都市サンクトペテルブルク(Saint Petersburg)で市議会議員を務めるミロノフ氏には、同性愛者の権利擁護派からの反感が一挙に集まっている。だがそれは、同氏の極端な発言のみが理由ではない。

 ミロノフ氏は、多方面から批判を集めている「同性愛のプロパガンダ(宣伝)」禁止法を地元議会に提案し、現代のロシア社会に具体的な影響を及ぼした人物だ。

 同性愛プロパガンダ禁止法は、かつてロシア帝国の首都だったサンクトペテルブルクで制定されると、次に連邦下院議会の議員らに取り上げられ、今年6月のプーチン大統領の署名によりロシア全土を対象とする連邦法として成立した。

 だが活動家らは、同法が同性愛者の弾圧に利用されかねないと主張。同法をめぐり2014年ソチ冬季五輪のボイコットまで呼びかけられるなど、ロシア政府にとって大きな頭痛の種となる論争を巻き起こしている。

 こうした非難の声に直面しても、ミロノフ氏は自身の立場を決して崩そうとはしない。ロシアの五輪開催権はく奪を呼び掛け、インターネット上で目に見えて拡大を続ける反対運動を率いてきたフライ氏についても、自身の考えを隠さない。サンクトペテルブルクでAFPの取材に応じたミロノフ氏は「私にとってスティーブン・フライ氏は、邪悪な考えを表明する、悪の運び手だ」と語った。

 3月にサンクトペテルブルクで対談したことで天敵同士になった両氏は、メディアを通じた中傷合戦を繰り返してきた。フライ氏はプーチン大統領に対する痛烈な批判でも知られ、同大統領を英人気小説「ハリー・ポッター(Harry Potter)」シリーズに登場する屋敷しもべ妖精のドビーそっくりだと揶揄(やゆ)した発言は、人々の記憶に鮮明に残っている。

■「謝罪の必要はない」

 サンクトペテルブルク、そしてロシア全土で成立した同性愛プロパガンダ禁止法に対する批判が高まっても、ミロノフ氏は同法について、「予防的な」法律であり実害はないと主張する。

「同法はわれわれの価値観を宣言するもの。現代における課題に対するわれわれの回答だ。ロシアの価値観と国益を守るプーチン氏がいることを、神に感謝する」

 ミロノフ氏いわく、ロシアは「欧米諸国をのみ込んだ堕落の波に、抵抗しなければいけない」という。「われわれがなぜ欧米人の前で謝罪しないといけないのか、私には分からない」

 同法を犯したとみなされた個人や団体には罰金が科されるが、外国人のみを対象とした異例の条項では、最大10万ルーブル(約30万円)の罰金や、最大15日間の拘留、そして国外追放を科すとも定められている。

 専門家の多くは、ソ連崩壊後の同国で最大のイベントになるソチ五輪に影を落とす恐れのある同法に対する国際社会の反応を、ロシアが軽視しているとみている。

 だが「欧州文化の男」を自称するミロノフ氏は、同法はロシアの家族観を奨励し、子供たちを守るものだと主張する。「われわれは子供たちの未来を守らないといけない」。4歳と1歳の子を持つミロノフ氏は語った。

 同氏は欧州の一部の国々で同性婚が合法化されたことについて悪態をつき、「社会が病んでおり、精神が劣化している兆候だ」と述べた。「ロシア人の95%が同性婚に反対だ。ゲイはロシア社会で何の支持も得られない」

「『小児愛は性的な選択だ』とも言えるし、『殺人は生き残るための一つの手段だ』とも言えるかもしれない。だが、真実は真実。物事を変えることはできない。こう言って悪いが、同性愛は正常ではない」

 同性愛者に対する暴言を繰り返すミロノフ氏は、欧州諸国では過激主義者にみられるだろうが、ロシアでは、保守化が進む政治的動向と合致する。プーチン大統領は先月、同性愛プロパガンダ禁止法は出生率を上げるために必要だ、と語った。「ロシアと欧州諸国は大きな問題を抱えている。出生率が低く、欧州人は滅びつつある。同性婚は子供を産み出さない」

(c)AFP/Marina KORENEVA