【8月21日 AFP】「銅」が引き金となって、アルツハイマー病の原因になるアミロイド斑(プラーク)の蓄積が脳内で発生する可能性があるとする新たな証拠が見つかったとの研究論文が19日、米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of SciencesPNAS)に発表された。これにより、認知症におけるミネラルの役割をめぐる新たな議論が巻き起こっている。

 銅はアルツハイマー病を引き起こすのか、あるいは防止するのかという疑問に関して、科学界の意見は2つに分かれている。銅は、赤身の肉、野菜、乳製品に含まれるほか、先進国世界の大部分で飲料水を運ぶパイプに使用されている。

 論文の主執筆者、米ロチェスター大学メディカルセンター(University of Rochester Medical Center)のラシド・ディーン(Rashid Deane)研究教授らは今回の研究で、アルツハイマー病の特徴であるタンパク質「アミロイドベータ」(プラーク)の蓄積につながる血液脳関門の損傷を、毛細血管内の銅がどのようにして引き起こす可能性があるのかを調べた。

 ディーン教授によると、マウスとヒトの細胞を使った実験の結果、飲料水経由で運ばれる低濃度の銅が、脳に血液を供給する毛細血管の壁に蓄積されることがわかったという。「これらは、人々が普通の食事で摂取する程度の非常に低濃度の銅だ」と同教授は話す。

 ディーン教授の論文によると、銅は酸化を引き起こし、「リポタンパク質受容体関連タンパク質1(LRP1)」と呼ばれる別のタンパク質の働きを阻害するという。LRP1は通常、脳からアミロイドベータを除去する。

 銅は、アルツハイマー病の主要な原因と考えられているプラークの除去を妨げるだけでなく、ニューロン(神経細胞)を刺激して、アミロイドベータが生成される量を増やしているようにも見えたという。

 研究者らは今回の研究結果を「銅がアルツハイマー病で重要な役割を担っている有力な証拠」を示す「ワンツーパンチ」だとプレスリリースで表現した。

 ディーン教授は「銅は必須金属の1つであり、これらの作用が長期にわたる影響を受けたことに起因するものであるのは明らかだ」と声明で述べている。「重要な点は、銅の摂取量について、多すぎず少なすぎずの適正なバランスを取ることだ。現時点では、適正な水準を明確に示すことはできないが、このプロセスの調整においては、結局は食事が重要な役目を担っているのかもしれない」

■研究者らからは疑問の声も

 だが、銅とアルツハイマー病の研究を行ってきた他の専門家からは、今回の論文の結果を疑問視する声が上がっている。

 英キール大学(Keele University)生物無機化学部のクリストファー・エクスレイ(Christopher Exley)教授は「われわれ自身のものも含む研究では、アミロイドがプラーク内で見られる種類の構造を形成するのを銅が妨げるという、正反対の結果が得られている」と語る。

 エクスレイ教授と同僚らは、この主題に関する最新の論文を2月に英科学誌ネイチャー(Nature)で発表した。「ヒトの脳と脳組織を使って研究を行ってきたわれわれのすべての知識に基づくならば、われわれはグループとして、どちらかといえば、銅はアルツハイマー病を防ぐと思われると考えるだろう」

 別の外部の研究者、米ミシガン大学(University of Michigan)医学部のジョージ・ブリューワー(George Brewer)名誉教授(内科医学)は、この「論文の著者らは、銅の脳への毒性に関する重要な点を見逃している」と話す。

 ブリューワー教授は、AFPへの電子メールで「彼らは、論文の中で述べているような飲料水で運ばれる銅を、食物に含まれる銅と区別していない」と述べている。「われわれは常に、食物に含まれる銅を摂取している。だから、銅がこの新たなアルツハイマー病のまん延の原因になることは、おそらくあり得ないだろう」

「もしこの微量の銅を、飲料水に入れるのではなくて、食物に加えたとすれば、何の影響も及ぼさないだろう」(c)AFP/Kerry SHERIDAN