【3月25日 AFP】1時間以上助けを求めて叫んでいたのに、誰も助けてくれなかった――。インド北部のホテルで性的暴行を受ける恐怖を感じた宿泊客の英国人女性が2階の客室のバルコニーから飛び降り負傷した事件で、英国放送協会(BBC)のインタビューに応じたこの女性が24日、詳細な経緯を語った。

■ドアにバリケード、助け呼ぶ

 英ロンドン(London)在住の歯科衛生士、ジェシカ・デービス(Jessica Davies)さん(31)は今月19日、タージマハル(Taj Mahal)で知られるインド北部アグラ(Agra)の3つ星ホテル「アグラ・マハル(Hotel Agra Mahal)」で、まず客室入口のドアを内側から家具でふさいで、ホテルの支配人ら男2人が室内に入ってこようとするのを防いだという。「鍵穴に鍵を差し込んで抑えていましたが、反対側から男たちが鍵を開けようとしているのが分かりました」

 結局、泊まっていた2階の客室のバルコニーから飛び降りて逃げ、両足を負傷したデービスさん。もっとひどい目に遭っていたかもしれないと述べ、「性的暴行の恥ずかしさから、多くの人が怖がって声を上げることができずにいる」ので、自分の身に起きたことを話す決意をしたと語った。

 ホテルの他の滞在客が誰1人自分を助けてくれなかったことには「むかついた」という。

■支配人が主張する「モーニングコール」は否定

 その日、デービスさんは午前3時45分という早朝に自室のドアがノックされたことに「驚いた」と語った。ホテル支配人の弁護人は、デービスさんがジャイプール(Jaipur)行きの列車に乗るためにモーニングコールをするよう支配人に頼んだと主張しているが、デービスさんはこれを否定し、自分で午前4時半に目覚ましをセットしていたと説明した。

 デービスさんがパジャマ姿のままドアを開けると、支配人はシャワーを浴びたいかと聞いてきて、マッサージ・サービスの提供を申し出たという。「彼は手に持っていたオイルを私に見せました」(デービスさん)

 支配人がその場から立ち去るのを拒否したため、デービスさんは客室にこもってドアの前にバリケードを築いた。それから1時間15分にわたり「ドアを蹴りながら叫び続けて、誰か助けに来てくれるのを待っていた」という。「彼らは、どんな手段を使ってでも私の部屋に入ろうとしていました。100%確信しています。そして2階から飛び降りるのが、唯一の逃げ道でした」

■助けてくれた人力車の運転手

 着地したとき叫び声が聞こえたが、デービスさんは「後ろを振り返らずに、ただ走りました」。興奮していたせいで、足をけがしていることには気づかなかったという。

 通り掛かった人力車(リキシャ)の運転手に警察署に連れて行ってもらったが、この運転手は数時間にわたって警察署でデービスに付き添ってくれたうえ、通訳まで勤めてくれたという。「素晴らしい人でした。でも名前を知らないので、どうやって感謝を伝えたらいいか分からないんです」

 インドでは女性のレイプ事件が相次いでおり、デービスさんの事件の直前にも夫と2人で自転車旅行をしていたスイス人女性が集団レイプの被害に遭ったばかり。デービスさんは、こうした最近の事件のことを知っていたので「注意深く行動し、服にも気を遣っていた」という。今後もインド旅行は続けるつもりだが、「1人旅はもう絶対にしません」と話している。

■支配人らの弁護士、「事件は作り話で陰謀」

 ホテルの支配人と従業員の2人は前週20日、地元の治安判事裁判所に出廷したが、デービスさんに対する性的いやがらせの容疑を否認している。

 支配人の弁護人のプラカシュ・ナラヤン・シャルマ(Prakash Narayan Sharma)氏はAFPの取材に、2人は無実の罪を着せられただけで、事件はデービスさんの作り話だと主張。さらに、事件は観光客に人気の高いアグラのイメージをおとしめるため、ニューデリー(New Delhi)の観光当局が仕組んだ陰謀だと主張した。(c)AFP