【10月8日 AFP】国民総生産(GNP)に代わる指数として国民の幸福度を測る「国民総幸福量(GNH)」を掲げていることで知られるヒマラヤ山脈の王国ブータンが、世界初となる国産農産物と食品の100%オーガニック(有機農業)化を目指している。

 仏教を国教とし、中国とインドに挟まれた小国のブータンが進める経済開発は、世界でも珍しい環境保護と精神の健全性に重点を置いたものだ。海外からは、こうしたブータンの姿勢をうらやむ向きもある。

 このほど発表されたオーガニック100%計画は、今後10年間で農産物栽培における化学肥料や農薬の使用を段階的に削減し、最終的に同国の主食である小麦やジャガイモ、果物を完全な有機農産物とすることを目指すもの。

 首都ティンプー(Thimphu)からAFPの電話取材に応じたペマ・ギャムツォ(Pema Gyamtsho)農相は、「われわれ人間が地球に途方もない負担を与えている事実に鑑み、ブータンは『グリーン・エコノミー』の導入を決定した」と説明。「集約的農業を推進すれば大量の化学物質が使われることになる。これは、われわれが信仰する仏教が説く自然との共生にそぐわない」と語った。

 ブータンの人口は、わずか70万人ほどだが、その3分の2がインドに近い南部の肥沃な平地や北部の険しいヒマラヤ山岳地帯に点在する村々で農業を営んでいる。

 ギャムツォ農相によれば、ブータンは国土のほとんどが森林に覆われ、農地は国土の3%に満たない。多くの農家は腐葉土や堆肥を用いた農業を行っており、すでに有機栽培が実践されているという。

 外国の影響から自国文化を保護するため1999年までテレビ視聴や団体旅行が禁じられていたブータンでは、現在も毎週火曜を「歩行者の日」として市中心部への車の乗り入れを禁止している。

■オーガニックに勝機を求める小国

 現在のところ、「オーガニック100%」を目指すブータンの唯一のライバルは南太平洋の小島ニウエ(ニュージーランド自治領)だ。人口わずか1300人のニウエは、2015~20年を目標にオーガニック100%になることを目指している。

 国連食糧農業機関(Food and Agriculture OrganizationFAO)で世界の有機栽培動向を担当するナディア・シアラッバ(Nadia Scialabba)氏は、規模の小さな国や地域にとってオーガニック市場は魅力的だ。オーガニック商品は高めの値段設定ができると言う。このため、量では太刀打ちできないが質でならば勝機がある小国でオーガニック重視政策が進んでいるのだという。

 スイス有機農業研究所(Research Institute of Organic AgricultureFiBL)と国際有機農業運動連盟(International Federation of Organic Agriculture MovementsIFOAM)の調べでは、2010年の世界オーガニック市場規模は推定445億ユーロ(約4兆5500億円)。

 ブータンは日本にマツタケを輸出しているほか、タイの高級ホテル向けに野菜、米国に赤米を輸出している。ブータン産のリンゴも評判が高く、隣国のインドなどへ輸出されている。(c)AFP/Adam Plowright