【5月25日 AFP】米大リーグ(MLB)、テキサス・レンジャーズ(Texas Rangers)のダルビッシュ有(Yu Darvish)の活躍が日本でのMLB人気を再燃させている一方で、MLB側は長期的な目標として中国の野球市場に注目している。
 
 背が高く、整った顔立ちのダルビッシュが4月に大リーグデビューを飾って以来、同選手のユニフォームの売れ行きは好調となり、東京では女性たちがMLBファンの集う飲食店へ足を運んでいる。また、多くの日本人がレンジャーズの本拠地レンジャーズ・ボールパーク・イン・アーリントン(Rangers Ballpark in Arlington)を訪れている。

 都内でMLB商品を取り扱っているスポーツグッズ専門店セレクション(SELECTION)で働く石浜琢也(Takuya Ishihama)さんは「ファンの方のグッズを求める熱意は去年よりすごく高いです。去年はそんなに大きな話題というのがなかったので」と話す。

 ダルビッシュが先発登板する試合は、日本時間の午前中、時には午前2時から生中継され、多くのファンが不眠で目をかすませている。

 速球と多種多様な変化球を駆使し、プロ野球・北海道日本ハムファイターズ(Hokkaido Nippon Ham Fighters)時代にリーグ最優秀選手(MVP)を2回を受賞しているダルビッシュは、交渉権を含めた獲得総額としては日本人選手史上最高額となる1億1170万ドル(約85億円)で、レンジャーズと契約を結んだ。

 高額な契約でメジャーに移籍しながらも期待を裏切る結果に終わった日本人選手がいる中、4月9日のメジャー初登板以降、先発した9試合で6勝2敗、63奪三振、47被安打、4被本塁打の成績を残しているダルビッシュの活躍は、日本のファンを一安心させている。

■日本を上回るポテンシャルを秘める中国野球

 しかし、MLB側にとってダルビッシュの成功は、中国に眠る大きな可能性を思い出させるきっかけとなった。「文化大革命(Cultural Revolution)」の間に廃止されたことで、中国における野球はいまだ初期段階にある。

 3月29日に東京で行われた通算4度目となる日本でのMLB開幕戦、シアトル・マリナーズ(Seattle Mariners)とオークランド・アスレチックス(Oakland Athletics)の試合には4万3000人以上の観客が訪れた。

 帝京大学(Teikyo University)スポーツ経営学科の大坪正則(Masanori Otsubo)教授は、「この成功を梃子に、日本は言うに及ばず、MLBの中国や韓国などへのアジア向け攻勢が更に強まるだろう」とブログで指摘している。

 都内に事務所を構えるMLBアジア(MLB Asia)のジム・スモール(Jim Small)副社長は、故毛沢東(Mao Zedong)主席による文化大革命で禁止されるまで約100年間プレーされていた中国野球が、ここ数年で成長を見せていると話している。

 2002年に中国野球リーグが発足し、現在では約4億人がテレビでワールドシリーズを観戦することもあると話すスモール副社長は、「中国で再び野球の人気を高め、MLBでも活躍できるような選手を育成しなければならない」と語っている。

 MLBは普及活動の一環として、一般大衆向けのテレビ番組を通じて500万人以上に野球を紹介したり、若い選手を育成するための施設を設立するなど、いつの日か米国本土で活躍する選手が現れるのを待ち望んでいる。

 中国では、米プロバスケットボール協会(NBA)のヒューストン・ロケッツ(Houston Rockets)で活躍した姚明(Yao Ming、ヤオ・ミン)の影響でNBAが絶大な人気を誇っており、MLBも同様の方法で人気拡大を図りたいと考えている。

 1800年代後半から野球が行われている日本からメジャーリーガーが初めて誕生したのは、1964年から65年にかけてサンフランシスコ・ジャイアンツ(San Francisco Giants)でプレーした村上雅則 (Masanori Murakami)氏までさかのぼる。その後、日本からは50名近くの選手が渡米しており、近年ではイチロー(Ichiro Suzuki)や松井秀喜(Hideki Matsui )、松坂大輔(Daisuke Matsuzaka)らがいる。

 また米スポーツウェブサイトSI.comによると、MLBの国際収支の70%は日本が占めている。

 スモール副社長は「日本は財政面だけでなく、知名度においてもわれわれにとって最重要市場であることに変わりはない。韓国や台湾でも、日本と同じようなビジネスが行われている。両国でも野球人気は高く、MLBでは韓国人選手と台湾人選手もプレーしている」と語った。

 スモール副社長は中国が日本を上回るのは遥か先のことだと認めているものの、最終目標を明確にしている。

 「課題はたくさん残っている。数年のうちに達成とはいかないだろう。でも見守ることは楽しいことだよ」

(c)AFP/Shigemi Sato