フランコ政権下の「盗まれた子供たち」事件、初の裁判 スペイン
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【4月15日 AFP】スペインの首都マドリード(Madrid)で12日、フランコ独裁政権下で新生児が出産したばかりの母親から修道女らによって盗まれるという組織的な事件で、初の裁判が行われた。
スペインでは1939~75年までのフランシスコ・フランコ(Francisco Franco)総統による独裁体制下、およびその後1980年代までの数十年に及び、カトリック教会の司祭や修道女、医師らが組織的な新生児の拉致に関与したとみられているが、母親から奪われた子どもたちの正確な数は分かっていない。数百人から数万人説まである。
12日は、1982年3月にマドリードの産院で出産したマリア・ルイサ・トーレス(Maria Luisa Torres)さん(58)から生まれたばかりの女児を奪ったとされる修道女マリア・ゴメス・バルブエナ(Maria Gomez Valbuena)被告(80)に対する裁判が行われた。
出産後、トーレスさんはバルブエナ被告から、経済的に落ち着くまで一時的に女児の面倒を見てあげるといわれ、その申し入れを受け入れた。だが、被告は女児を他の家族に渡していたという。このためトーレスさんは娘を「盗まれた」としてバルブエナ被告を訴え、被告は不法監禁と文書偽造のかどで起訴された。
AFPの取材に応じたトーレスさんは出産後、「娘はどこにいるのかと彼女(バルブエナ被告)に聞いた時、私はまだ半分眠っていた。彼女はこう答えた。『私にそれを聞くのはやめなさい。さもないと他の娘も連れて行くし、あなたは姦通罪で刑務所へ行くことになります』」 なぜ子供を奪われた当時被告を訴えなかったのかというAFPの質問に対してトーレスさんは「修道女は絶対的な存在だと思っていたから」だと答えた。
生き別れた娘は、この事件を追っていたある記者が探し出し、トーレスさんは前年、再会を果たしている。
一方、出廷したバルブエナ被告は、法廷での証言を拒否。付き添った仲間の修道女と共に警官に警護されながら、押し寄せた報道陣から逃れるように裁判所を後にした。
フランコ政権下で「道徳教育」上、問題があるとみられる家庭から子どもを引き離すという政策として当初開始された新生児の拉致は、じきに金銭目的に変化していったとみられている。母親たちは多くの場合、子供は出産して間もなく死亡し、病院がすでに埋葬したと聞かされていたが、新生児たちは実際には他の家庭に譲られたり、売られていた。こうした母親らによる訴えは1400件以上に上り、子どもを買った側が起訴される例も増えている。
政府も12日、盗まれた新生児たちの行方を突き止めるためのDNAデータベースを構築する方針を発表した。事件の被害者と思われる人々から申し立てがあった場合には、率先して対処するよう検察当局にも指導するとしている。(c)AFP/Elodie Cuzin