【12月12日 AFP】ネズミにも仲間を思う心があった――。米シカゴ大(University of Chicago)の神経科学者らが、こんな研究結果を8日の米科学誌「サイエンス(Science)」に発表した。

 おいしいチョコレートにありつくか、それとも捕らわれた仲間を救い出すかの選択肢を提示すると、多くのラットが後者を選択したという。これは、ラットにも他者に共感する能力が備わっていることを示しているという。

 米シカゴ大のジョーン・デセティー(Jean Decety)教授(心理学、精神医学)は、「ラットが共感によって引き起こされる援助行動を取るという初めての証拠だ」と述べている。「共感する生き物が人間だけではないことを描いた文学作品はたくさんあるし、類人猿では既に確認されているが、げっ歯類に関しては今までよく分かっていなかった」

■監禁された仲間を救うか?

 実験ではまず、メス6匹を含む30匹のラットをペアにして、各ペアずつ1つのケージの中で2週間、飼育した後、別のケージに移した。新しいケージの中では、ペアの片方を監禁装置に閉じ込め、もう1匹の方は自由に動き回れるようにした。自由なラットは相方のラットが監禁されている姿を見、鳴き声を聞ける状態だった。

 すると、自由なラットは興奮している様子を見せた。装置の扉は簡単には開かないようになっていたが、ほとんどのラットは3~7日間に扉を開ける方法を探り当てた。扉の開け方が分かったラットは、何度このケージに入れ直しても必ずまっすぐ扉を開きに向かった。

 ペアの「きずな」を確かめるため、次の実験では片方のラットをぬいぐるみに置き換え、監禁装置に閉じ込めて、自由なラットが扉を開けに行くかを観察した。結果、ラットはぬいぐるみを助けようとはしなかった。

■相手が別のラットでも助ける?

 論文を執筆した1人、インバル・ベンアミ・バータル(Inbal Ben-Ami Bartal)氏は、「ラットたちには何の訓練も施してはいない」と強調する。「ラットたちは、何らかの内的な動機付けによって学習したのだ。扉の開け方も教えていないし、扉が開くところも見せていない。おまけに、この扉は開けるのが難しい。それでもラットたちは何度も挑戦し、最後には開けてみせる」

 さらに研究チームは、ラットのペアを取り替えて同じ実験を行ってみた。閉じ込められているのが自分の相方でない場合でも、ラットは扉を開けた。この結果から、ラットたちの行為が交友関係に動機付けられたものではないことが示唆された。

 バータル氏は次のように論じている。「監禁されたラットの苦痛を取り除くため、という理由以外には、(扉を開ける)動機は考えられなかった。ラットが同じ行動を繰り返す場合は、その行動がラットにとって十分な価値があることを意味する」

■チョコチップと仲間、どっちが大事?

 最後に、ラットの決意のほどを試す実験を行った。ケージの中に山盛りのチョコチップを置いてみたのだ。ラットたちが通常のエサよりもチョコレートを好むことは事前の実験で証明されていた。

 そして、チョコチップを前にしても、ラットたちの博愛精神は生きていた。最初にチョコチップにかじりつく場合もあったが、すぐに仲間を救出しに向かい、残りのチョコチップを仲間と分けたのだ。

 ラットたちは平均してチョコチップの52%を自分で食べ、残りを相方に与えていた。対照実験として、ケージ内に1匹だけラットを入れた場合どれだけのチョコチップを食べるか調べたところ、ほぼ全部を食べきっていた。

■メスの方が共感能力が高い

 研究者らはまた、ペアの役割を取り替え、監禁されていた側のラットが今度は扉を開く役に回るようにしてみた。すると、メスは6匹ともが扉を開け、オスは24匹中17匹が扉を開けた。この点について、論文は「メスの方がオスよりも共感能力が高いという考えと一致する結果だった」と述べている。

 ほとんどのラットが扉を開けることができたものの、一部のラットはできなかったことから、研究者たちは今後の研究課題として「行動の違いをもたらす生物学的な根拠」を探すことを挙げている。(c)AFP