【12月1日 AFP】エイズ(AIDS)を引き起こすヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染させた遺伝子組み換えマウスに抗体を作る遺伝子を注入したところ、高い有効性が示されたとする論文が、11月30日の英科学誌ネイチャー(Nature)に発表された。エイズ発見から30年、いまだ完成を見ないHIVワクチンの開発に向けて新たな道が開かれた。

 エイズは1981年に初めて確認されて以来、少なくとも2500万人の命を奪っている。薬物療法のおかげで年間死者数はピーク時から激減したものの、ワクチンが開発されなければ再び世界的大流行(パンデミック)が起きると指摘する声は多い。過去のワクチン臨床試験で中程度以上の有効性が示された手法は1つきりで、そのHIV感染防御率はわずか31%だった。

 この結果を受けて研究者らは基本に立ち返り、先天的にHIVへの抵抗力を持つ限られた人々を対象に、広範囲に効く中和抗体――免疫系の最前線で働くY字型の抗体たんぱく質を探し始めた。いわゆる「bNAb」はこれまでに約20個発見されたが、働きやワクチンの実現性については不明点が多かった。

■「トロイの木馬」、マウスの体内で抗体に

 1975年にレトロウイルスの複製でカギとなる逆転写酵素の発見で37歳の若さでノーベル医学生理学賞を共同受賞したデービッド・ボルティモア(David Baltimore)氏率いる米カリフォルニア工科大(California Institute of TechnologyCaltech)の研究チームは今回、bNAbを作る遺伝子をマウスに導入する手法を開発した。

 ベクター免疫予防(Vectored ImmunoProphylaxis、VIP)と名付けられたこの手法は、特定のbNAbになれる遺伝子を無害なウイルスに隠し、「トロイの木馬」のように体内に潜り込ませるというもの。HIVの侵入と再生が可能になるよう遺伝子を組み換えたマウスの足の筋肉にこのウイルスを注入したところ、ウイルスは細胞の中に潜伏し、bNAb遺伝子はHIVの抗体を作ることができた。

 ウイルスを注射されていない遺伝子組み換えマウスでは、大半が1ナノグラムのHIVにさらされると感染してしまう。実験ではウイルスを注入した複数のマウスをまず1ナノグラムのHIVにさらし、続いて量を125ナノグラムまで増やしてみたが、HIV感染も副作用も見られなかった。

「VIPの効果はワクチンと似ているものの、免疫系は一切関与していない。通常は、抗原や死菌などを体内に入れると、免疫系が抗体をどのように作るかを考える。VIPはこの部分を一切飛ばしている」と論文は述べている。

 ただし研究チームは、マウスから人への応用のハードルは高いと強調してもいる。ボルティモア氏は、「人間の問題を実際に解決したわけではない。とはいえ、マウスでは予防効果がはっきりと示された」と述べた。現在、小規模の臨床試験の実施計画を慎重に練っている最中だという。(c)AFP