【11月23日 AFP】ポルトガル人実業家のオメーロ・コスタ(Homero Costa)氏(61)は、欧州債務危機のあおりを受け、手塩にかけて育ててきた従業員80人の建設会社の廃業を考えている。

「アンゴラに行くかも知れない」。アンゴラ共和国は、アフリカ南西部にあるポルトガルの旧植民地だ。コスタ氏は仕事の関係で定期的にアンゴラを訪れている。「アンゴラはよく知っているからね」

 コスタ氏の娘リタ(Rita)さん(26)は、ポルトガルの大学を卒業した多くの若者と同じように、職に就いていない。彼女はもうひとつの旧植民地、ブラジルへ行けばきっと仕事が見つかると思っている。コスタ氏は「娘を100%応援するよ。ここ(ポルトガル)では、この先数年はたいした投資も、大きな公共事業もないだろうからね」と言う。

 ポルトガルにせよ他の国にせよ数十年前は、多くの人びとがチャンスを求めて植民地だった発展途上国から旧宗主国に押しかけていた。しかし人の流れは今や逆転した。コスタさんの父娘は「移民の逆流」現象の典型だ。

 統計にばらつきはあるが、移民の逆流という傾向自体は明らかだ。ポルトガル国家統計局によると、2010年には3万人のポルトガル人が他国へ移った。しかし政府の移民監視機関では、労働力人口500万人のうち実際に外国に移った人は7万人以上にのぼるとみている。政府のしっかりした統計がある2009年の約4万人(アンゴラへ2万3700人、ブラジルへ1万6900人)から大きく増えている。

 ポルトガルがまだ欧州の貧困国だった1960年代から70年代にかけては、ポルトガル人は旧植民地ではなく、自国よりも経済的に豊かだったフランス、ベルギー、ルクセンブルクなどに職を求めた。しかし、ギリシャ、アイスランドに端を発し、域内第3位、第4位の経済を持つイタリア、スペインまでもが脅威にさらされている欧州債務危機の中、ポルトガル人の「職探し」は欧州圏外に移っている。

■経済的期待と文化的つながり

 ポルトガル人にとって旧植民地、とりわけブラジルとアンゴラは言語的、文化的に親しみ深いだけでなく、経済的に期待が持てる国でもある。数十年間続いた内戦が2002年に終結したアンゴラは、石油ブームが国家再建の追い風となり、2012年には12%の経済成長が見込まれている。

 アンゴラへ移住したいというポルトガル人のためのガイドブックを書いたエルミーニオ・サントス(Herminio Santos)氏は、「これらの国には、もはやポルトガルでは見つからないようなチャンスがある。労働条件もいいし、給料もいい」と語る。給与はポルトガルの3~4倍になる場合もある。「アンゴラにはホテル産業から金融、情報テクノロジー、マネジメントまで、求人している業種がたくさんある。ポルトガル人の技能が強く求められている」と言う。
 
 アンゴラの首都ルアンダ(Luanda)のベイサイドにある2つのヨットクラブでは、新車のSUVでやって来たアンゴラ在住のポルトガル人たちが、海風に吹かれながらポルトガル産のビールやワインを楽しんでいる。

 アンゴラで生活する約10万人のポルトガル人の1人、フェルナンド・ダ・ポンテ(Fernando da Ponte)氏(49)は妻と2人の子どもたちを連れて2008年に一家で移り住み、不動産販売大手チェーン、センチュリー21(Century 21)のフランチャイズ店を開業した。

 妻のテレザ(Teresa)さんはアンゴラ生まれだが、アンゴラに来た一番の動機はビジネスチャンスだった。「(ポルトガル南部の)アルガルベ(Algarve)の不動産業界は崩壊してしまった。そんな時にこのチャンスがやって来たんだ。ものすごくもうかっているわけではないが、損もしていない。そこが重要だよ」。ルアンダでは水や電気は貴重で、生活には難しい面もある。「みんなここよりポルトガルに住みたいと思ってるよ。でも生きていくには仕事が必要だし、今はここが働いて金を稼ぐ場所なんだ」

■若い専門職や新卒者が増える

 ダ・ポンテ氏によると、アンゴラへ移り住むポルトガル人で最近多いのは、若い専門職のカップルや、大学を出たものの賃金の良い職が見つからない若者たちだという。「移住する人たちのタイプは確かに変わってきている。以前は建設業に従事する人たちや個人の起業家が多かったが、今ではサービス業や専門職層が増えている」

 ビザの問題も変化している。アンゴラでは最近まで企業との契約がない限り、就労ビザの取得はほぼ不可能で、観光ビザの取得さえ容易ではなかった。しかし今月に入りアンゴラ政府は、ポルトガル人には30日以内に就労ビザを発給することに合意し、しかも就労ビザの期間を3年に延長した。ポルトガル人の短期滞在ビザの期間も現行の30日間から90日間に延長され、8日以内に発給される。

 一方、コスタ氏の娘のリタさんが目指すブラジルについては、ポルトガル人は観光ビザは不要で、入国後に就労許可を申請することもできる。ブラジル在住ポルトガル人は、アンゴラよりもさらに多い21万3000人。急速に成長する経済に魅せられて来た人、また2014年に行われるサッカーW杯や2016年の夏季五輪でのひと儲けを狙う人びとも多い。リタさんも大規模スポーツイベントに向けた建設プロジェクト関連の仕事を見つけたいと思っている。(c)AFP/Levi Fernandes