大規模イベントでの感染症拡大を阻止、ハイテクに注目
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【11月2日 AFP】南アフリカで2010年サッカーW杯南アフリカ大会(2010 World Cup)が開かれたことし6月、カナダのカムラン・カーン(Kamran Khan)博士は、航空機で南アフリカに向かう旅客数とその出発地を示す3D世界地図を見つめていた。
この地図はもうひとつのデータもあわせて映し出していた。英ロンドン(London):2万9454人:流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、セネガルのダカール(Dakar):3777人:結核、シンガポール:5331人:手足口病…。各出発地で流行している感染症の種類だ。
このツールはカナダ・トロント(Toronto)の聖ミカエル病院(St. Michael's Hospital)でカーン氏らが手がけるバイオディアスポラ(Bio.Diaspora)プロジェクトが開発したもの。旅客数のデータと感染症の発生状況のデータを組み合わせて、大勢の人が集まる大規模イベントでの感染症対策に役立てようという発想は当たり前のようにも思えるが、大規模イベントのプランナーたちが詳細な航空旅客のデータを感染症の発生状況と関連づけられるようになったのは最近のことだ。
英医学専門誌ランセット(Lancet)が後援して、前週サウジアラビアのジェッダ(Jeddah)で3日間にわたり開かれたシンポジウムで、カーン氏のプロジェクトは大規模イベント運営の専門家たちの強い関心を集めた。彼らが携わるのは音楽フェスティバルから五輪、そして毎年1度、200万人以上の信徒がサウジアラビアのメッカ(Mecca)を目指すイスラム教の巡礼まで多岐にわたる。
■感染症予防:メッカ巡礼の教訓と貢献
開催地の医療能力を圧倒する恐れがある大規模なイベントを「マス・ギャザリング(Mass gathering)」と言う。2012年のロンドン五輪で医療計画の指揮を執るブライアン・マクロースキー(Brian McCloskey)氏は、マス・ギャザリングでは小さなことが急激に拡大するため、通常よりも問題がはるかに小さな段階で対応する必要があると指摘する。
メッカ巡礼では昔から、将棋倒しから髄膜炎の発生まで、さまざまな医療上の危機が起きてきた。ランセットとともにシンポジウムを後援したサウジ保健省のジアド・メミシュ(Ziad al-Memish)次官補は、巡礼参加者の大半が高齢者であることも問題を複雑にしていると話す。
新型インフルエンザA型(H1N1)の世界的大流行(パンデミック)が起きた2009年には、巡礼者の間での流行、ひいては世界への感染拡大を阻止するため、世界が動いた。H1N1の毒性が当初考えられたより弱かったことやワクチンの効果もあり、巡礼中の発症者は130人足らず、死者は5人だけだったが、大規模イベントに参加する人の出発地と目的地の詳細なデータの必要性を示す形になった。
一方でメッカ巡礼は感染症を予防する働きも果たしてきた。サウジ当局は巡礼参加者にポリオや髄膜炎の予防接種を求めているが、これが各国政府が予防接種プログラムを進めるひとつの推進力となり、「メッカ巡礼はポリオを根絶する上で非常に重要な貢献をしてきた」と、英シンクタンク、英王立国際問題研究所(チャタムハウス、Chatham House)のグローバルヘルスセキュリティーセンター(Centre on Global Health Security)のデービッド・ヘイマン(David Heymann)氏は指摘する。
■感染症拡大経路としての航空輸送システム
バイオディアスポラは、オンライン疾病早期警戒システム「ヘルスマップ(HealthMap)」と協力して、感染症の拡大経路としての航空輸送システムの理解を深めることを目指している。
「ほんの数週間で、ある感染症が、それまでその病気がなかった地域に広がることもありえます。私たちは今回初めて2つの情報を1つにまとめました。世界的な規模で感染症の脅威を把握して、マス・ギャザリングでの感染拡大を防ぐことは可能だと考えています」(カーン氏)
■ソーシャルメディアも活用
大規模イベントの医療関係者はソーシャルメディアにも注目している。米ホワイトハウス(White House)の国家安全保障担当スタッフで、2009年1月に米ワシントンD.C.(Washington D.C.)で行われたバラク・オバマ(Barack Obama)米大統領就任式の医療対策を指揮したデービッド・マルコッツィ(David Marcozzi)氏のグループは、ツイッターなどのオンラインメディアをモニターして、気温が氷点下に下がったインフルエンザ・シーズンの真っ只中に開かれた就任式に集まった約200万人の群集が寒さにどう対処しようとしているのか観察したところ、問題が起きそうな場所を把握することができたという。(c)AFP/Paul Handley
この地図はもうひとつのデータもあわせて映し出していた。英ロンドン(London):2万9454人:流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、セネガルのダカール(Dakar):3777人:結核、シンガポール:5331人:手足口病…。各出発地で流行している感染症の種類だ。
このツールはカナダ・トロント(Toronto)の聖ミカエル病院(St. Michael's Hospital)でカーン氏らが手がけるバイオディアスポラ(Bio.Diaspora)プロジェクトが開発したもの。旅客数のデータと感染症の発生状況のデータを組み合わせて、大勢の人が集まる大規模イベントでの感染症対策に役立てようという発想は当たり前のようにも思えるが、大規模イベントのプランナーたちが詳細な航空旅客のデータを感染症の発生状況と関連づけられるようになったのは最近のことだ。
英医学専門誌ランセット(Lancet)が後援して、前週サウジアラビアのジェッダ(Jeddah)で3日間にわたり開かれたシンポジウムで、カーン氏のプロジェクトは大規模イベント運営の専門家たちの強い関心を集めた。彼らが携わるのは音楽フェスティバルから五輪、そして毎年1度、200万人以上の信徒がサウジアラビアのメッカ(Mecca)を目指すイスラム教の巡礼まで多岐にわたる。
■感染症予防:メッカ巡礼の教訓と貢献
開催地の医療能力を圧倒する恐れがある大規模なイベントを「マス・ギャザリング(Mass gathering)」と言う。2012年のロンドン五輪で医療計画の指揮を執るブライアン・マクロースキー(Brian McCloskey)氏は、マス・ギャザリングでは小さなことが急激に拡大するため、通常よりも問題がはるかに小さな段階で対応する必要があると指摘する。
メッカ巡礼では昔から、将棋倒しから髄膜炎の発生まで、さまざまな医療上の危機が起きてきた。ランセットとともにシンポジウムを後援したサウジ保健省のジアド・メミシュ(Ziad al-Memish)次官補は、巡礼参加者の大半が高齢者であることも問題を複雑にしていると話す。
新型インフルエンザA型(H1N1)の世界的大流行(パンデミック)が起きた2009年には、巡礼者の間での流行、ひいては世界への感染拡大を阻止するため、世界が動いた。H1N1の毒性が当初考えられたより弱かったことやワクチンの効果もあり、巡礼中の発症者は130人足らず、死者は5人だけだったが、大規模イベントに参加する人の出発地と目的地の詳細なデータの必要性を示す形になった。
一方でメッカ巡礼は感染症を予防する働きも果たしてきた。サウジ当局は巡礼参加者にポリオや髄膜炎の予防接種を求めているが、これが各国政府が予防接種プログラムを進めるひとつの推進力となり、「メッカ巡礼はポリオを根絶する上で非常に重要な貢献をしてきた」と、英シンクタンク、英王立国際問題研究所(チャタムハウス、Chatham House)のグローバルヘルスセキュリティーセンター(Centre on Global Health Security)のデービッド・ヘイマン(David Heymann)氏は指摘する。
■感染症拡大経路としての航空輸送システム
バイオディアスポラは、オンライン疾病早期警戒システム「ヘルスマップ(HealthMap)」と協力して、感染症の拡大経路としての航空輸送システムの理解を深めることを目指している。
「ほんの数週間で、ある感染症が、それまでその病気がなかった地域に広がることもありえます。私たちは今回初めて2つの情報を1つにまとめました。世界的な規模で感染症の脅威を把握して、マス・ギャザリングでの感染拡大を防ぐことは可能だと考えています」(カーン氏)
■ソーシャルメディアも活用
大規模イベントの医療関係者はソーシャルメディアにも注目している。米ホワイトハウス(White House)の国家安全保障担当スタッフで、2009年1月に米ワシントンD.C.(Washington D.C.)で行われたバラク・オバマ(Barack Obama)米大統領就任式の医療対策を指揮したデービッド・マルコッツィ(David Marcozzi)氏のグループは、ツイッターなどのオンラインメディアをモニターして、気温が氷点下に下がったインフルエンザ・シーズンの真っ只中に開かれた就任式に集まった約200万人の群集が寒さにどう対処しようとしているのか観察したところ、問題が起きそうな場所を把握することができたという。(c)AFP/Paul Handley