【12月7日 AFP】幹細胞に関する研究がまたもや大きな前進を遂げた。鎌状赤血球貧血症を患ったマウスの皮膚から作製した人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った治療に成功したとの研究成果が6日、米科学誌「サイエンス(Science)」の電子版「サイエンス・エクスプレス(Science Express)」に発表された。

 胚(はい)ではなく皮膚に由来する幹細胞が治療目的に利用できることが証明されたのは世界で初めて。

 日本の科学者がマウスの皮膚から人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作製できることを実証したのはわずか1年前のことで、前月20日にはヒトの皮膚でのiPS細胞作製にも成功していた。

 iPS細胞は体のあらゆる組織に変化するため、損傷を受けたり疾患にかかったりした細胞や組織、器官に代用できることから、病気治療において限りない可能性を秘めている。

 鎌状赤血球貧血症は患者を衰弱させる慢性かつおおむね遺伝性の病気。全世界に数千万人の患者がおり、特にアフリカ系の人々の間でまん延している。

 研究では、鎌状赤血球貧血症を患ったマウスの尾の皮膚から幹細胞を作製し、これをさらに造血幹細胞に変化させた上で、鎌状赤血球貧血症の原因遺伝子を正常な遺伝子に置き換えた。

 その後、マウスに放射線治療を行って損傷した造血幹細胞をおおむね破壊し、皮膚由来の健康な造血幹細胞を移植した。その結果、健康な造血幹細胞は増殖して血球を作り始め、鎌状赤血球貧血症の症状が改善した。

 最も特筆すべき点は、幹細胞がマウス自身の皮膚から作製されたものであるため拒絶反応を避けることができ、危険を伴う免疫抑制剤を使用する必要性がないことだ。

 これまで、患者自身の幹細胞は胚から作るしかなかった。しかし胚性幹細胞(ES細胞)の作製手順は非常に複雑で、ほんの一握りの研究所しか作ることができない。また、胎児に成長する可能性のある胚を使うため、倫理的問題も指摘されていた。

 一方、皮膚由来の幹細胞の作製手順は非常に単純で、一般的な生物研究所で行うことができる。

 研究の共同著者、米ホワイトヘッド生物医学研究所(Institute for Biomedical Research)のルドルフ・イェーニッシュ(Rudolf Jaenisch)氏は今回の研究成果について、「(皮膚由来の幹細胞が)ES細胞と同じ治療効果を持つ可能性を実証した」とする一方、ヒトの病気治療への利用にはさらに研究を重ねる必要があると注意を促した。

 共同著者の米アラバマ大学(University of Alabama)のティム・タウンズ(Tim Townes)氏は「移植後の経過は4か月以上たった現在も順調だが、生涯にわたって(健康な)血球を供給し続けるかどうか、観察を続ける必要がある」と指摘している。(c)AFP/Mira Oberman