【12月4日 AFP】英国人作家フィリップ・プルマン(Philip Pullman)の児童文学を映画化した『ライラの冒険 黄金の羅針盤(The Golden Compass)』に対し、キリスト教団体から反宗教的だとする抗議の声が上がっている。

 同作品は、プルマンの十代の読者を対象としたファンタジー小説三部作『His Dark Materials』の第1部『ライラの冒険 黄金の羅針盤(The Northern Lights、米国版はThe Golden Compass)』を映画化したもの。

 小説『ライラの冒険 黄金の羅針盤』は1995年、英国児童文学賞「カーネギー賞(Carnegie Medal)」を受賞し、三部作の最終巻『琥珀の望遠鏡(The Amber Spyglass)』は2002年、英国児童文学としては初となるウィットブレッド賞(Whitbread Book of the Year)を受賞した。

 不可知論者であるプルマンによる同著は、ライラ・ベラクア(Lyra Belacqua)という名の少女が、映画ではイアン・マッケラン(Ian McKellen)が声を務める鎧グマなどのユニークな登場人物に出会いながら、“善対悪”の戦いに引き込まれていく様子を描いている。

 悪はマジステリアム(The Magisterium)と呼ばれる教会として描かれている。その信奉者は、英国中から孤児を誘拐し、凍える北の荒れ地で恐ろしい実験をするために服従させている。

 ニコール・キッドマン(Nicole Kidman)も出演しているこの映画は、制作費1億8000万ドルを費やした超大作で、制作会社のニューライン・シネマ(New Line Cinema)は、「ロード・オブ・ザ・リング(Lord of the Rings)」シリーズと同程度の大ヒットを期待している。また、「ハリー・ポッター(Harry Potter)」シリーズに夢中の子どもたちの関心も引きつけたいところだ。

 しかし、映画版『ライラの冒険 黄金の羅針盤』は既に、魔術を奨励しているとして宗教的観点から批判された「ハリー・ポッター」と同様の物議を醸している。
 
 できるだけ多くの観客を引きつけようと、映画では宗教組織に対するプルマンの批判は抑えられている。このことを認識しているクリス・ワイツ(Chris Weitz)監督はデーリー・テレグラフ(Daily Telegraph)紙に対し、「小説の中のマジステリアムは、道を踏み外してしまったカトリック教会を意味している」と語っている。しかし、「それを映画に期待しても、がっかりするだろう」とも述べている。

 しかし、不適切な部分が削除された同映画でも、35万人の会員を有するカトリック連盟(Catholic League)からは既に非難の声が上がり、作品を攻撃するちらしが配られている。同連盟のWilliam Donohue会長は、「カトリック連盟は、キリスト教徒に映画を見ないよう求める。この映画は本を購入させるためのおとりだ。疑いを抱かず子どもたちにこの映画を見せた親たちは、クリスマスプレゼントとして小説三部作を買ってしまうだろう。信仰心をもった子どもたちを育てたい親ならば、このような本は必要ないはずだ」と語った。

 同連盟は、キリストはマグダラのマリア(Mary Magdalene)と結婚し、子どもをもうけ、その子孫が現代でも生きているというストーリーを描き、2006年に大ヒットした映画『ダ・ヴィンチ・コード(The Da Vinci Code)』に対しても抗議運動を展開した。

 全米司教協議会(The United States Conference of Catholic BishopsUSCCB)は、映画版『ライラの冒険 黄金の羅針盤』の「反教権的な内容、典型的なオカルト的要素、未婚の母から生まれた子ども、ウイスキーをがぶ飲みするようなクマ」といった部分を批判し、より非難の色を強めている。しかし、「純粋に映画という観点だけで考えれば、“善対悪”という伝統的な闘いと権威主義の否定を描いた面白い冒険物語に見える」とも評価している。

 同作品は7日に全米公開される。バラエティ(Variety)誌によれば、上映予定の約3000の映画館の中で、現段階では60館だけが上映を拒否しているという。さらに同誌は、「数多くの団体が問題にしているのは、映画の反宗教的なテーマだ。しかし、別の人たちにとってもっと気になるのは、映画が盛り上がりに欠け、攻撃的で不快な大人たちに子どもたちが救いのないほどひどく扱われるところだろう」と加えた。(c)AFP