【10月18日 AFP】国家を創設し、国の経済を揺るがし、外交論争で目立つ役回りを演じる野菜はそうそうない。しかし、いつもは「謙虚な」ジャガイモには、世界を動かす力がある。

■イラク戦争をめぐる米仏フライドポテト合戦

 2003年、米軍のイラク侵攻に対する支持をフランスが拒んだとき、フライに姿を変えたジャガイモは、両国の外交論争の中心的役回りを演じた。フランスに対する怒りを表そうと、米国の議員たちは下院内の食堂のメニュー名を「フレンチフライ(フランスのフライ)」から「フリーダム・フライ(自由のフライ)」に変えさせた。

「小さな行動だが、同盟国を名乗るフランスに対する多くの議員の不満を象徴的に表すアクションだ」と、共和党オハイオ(Ohio)州選出のボブ・ナイ(Bob Ney)議員は当時述べていた。

 ナイ議員は議員食堂を管轄する院内委員会の委員長だったが、現在はフリーダム・フライでもフレンチフライの油でもなく、同党ロビイストがらみの詐欺事件で手を汚し、服役している。

■アイルランドから米国へ、ジャガイモ飢饉(ききん)による大量移民

 見かけは地味な根菜のジャガイモだが、その「影響力」は数世紀もさかのぼる。

 1800年代中ば、アイルランドの人口は、ジャガイモの収穫高減少によって半減した。「アイルランド飢饉」として知られるこの飢饉は4年間続き、農業国家だったアイルランドの経済は崩壊、餓死や国外移住などにより人口は800万人から400万人まで減った。100年以上が経過し、好景気に沸いた1990年代でさえも、人口は400万人強のままだ。

 ジャガイモ飢饉に端を発したアイルランド人の大移住の影響は、母国のみならず、大半の家族の移住先となった米国の政治や歴史にも影響した。

 共に暗殺に倒れたジョン・F・ケネディ(John F. Kennedy)米元大統領やロバート・ケネディ(Robert Kenned)元司法長官らケネディ兄弟の曽祖父、パトリック・ケネディ(Patrick Kennedy)が飢饉を逃れ、米国に移住したのは1848年。

 ケネディ以降、米国の政治運動では、アイルランド系の血筋を引くことは有利に働く。次期大統領選で黒人初の米国大統領を目指す民主党イリノイ(Illinois)州選出のバラク・オバマ(Barack Obama)上院議員も、自身の家系にアイルランド系がいることをアピールしている。

 オバマ氏の母方の数代前に当たるFalmouth Kearneyは、やはり1世紀以上前の1850年3月、アイルランドからニューヨークに到着したという。

■世界政治に「ポテト」の存在感

 1985年、米最大のジャガイモ生産地、アイダホ(Idaho)州の州都ボイシ(Boise)の市長選挙では、子どもに人気のおもちゃ「ミスター・ポテトヘッド(Mr Potato Head)」が、「4票」を獲得した。

 「国際ポテトセンター(International Potato Center )」のFernando Ezeta博士は、ジャガイモには「人や国家をつなぐ力がある」とまで賞賛する。博士によるとその威力はアジアにも及んでおり、今年初めにはジャガイモに関する22か国の国際会議を、北朝鮮が主宰した。

 欧州でも、ジャガイモが政治を動かしている。

 ポーランドのレフ・カチンスキ(Lech Kaczynski)大統領は2006年、独仏首脳との会談をキャンセルした。数日前、ドイツの日刊紙Die Tageszeitungは、同大統領と双子のヤロスワフ・カチンスキ(Jaroslaw Kaczynski)首相に対する風刺に富んだ記事の中で、2人を「ポーランドの新しいポテトたち」と書いていた。

 大統領の公式の欠席理由は病気だったが、メディアや専門家の間では、ジャガイモに例えられたことで機嫌を損ねたためという憶測が根強く流れた。

 英国のジャガイモ農家の人々は最近、英国議会の前で、「カウチポテト」という語を辞書から削除するよう求める抗議デモを行った。ソファに座って何時間もテレビを見続ける人を指すスラングとなったこの語によって、「ジャガイモは健康に悪いというイメージを与え、ジャガイモ農家に悪影響が出る」と抗議した。(c)AFP/Karin Zeitvogel