【5月31日 AFP】昨年11月にロンドンで、ロシア連邦保安局(FSB)元情報局員アレクサンドル・リトビネンコ(Alexander Litvinenko)氏が毒殺された事件で、英国に身柄引き渡しを求められている第1容疑者の旧ソ連国家保安委員会(KGB)元将校が、「リトビネンコ氏殺害の黒幕は、英国の情報機関だ。自分もスパイとして雇われそうになった」と反論した。

 英検察当局がロシア政府に容疑者として引き渡しを要請している元KGB将校で、ロシア人実業家のアンドレイ・ルゴボイ(Andrei Lugovoi)氏は31日、生放送された記者会見で、放射性物質による昨年のリトビネンコ氏殺害は、「英国情報機関のコントロールの範囲外では起こり得たことではない」と述べた。

 英国機関の直接関与を示す証拠はあるのかと問われた同氏は、「ある」と答えたものの詳細には触れなかった。

 ルゴボイ氏が記者会見で語った「諜報劇」は、リトビネンコ氏の死をめぐってすでに混迷しきっている英国とロシアの関係にさらに緊張を加えるとみられる。
 
 事件をめぐる両国のやりとりは他国にまで波及し、米国政府は前日、それまでの静観姿勢を転じ、英政府によるルゴボイ氏の身柄引き渡し要請を全面的に支持すると発表した。

 ルゴボイ氏は記者会見で、リトビネンコ氏の毒殺を実行したのは、通称MI6として知られる英秘密情報部(Secret Intelligence ServiceSIS)、ロシアのマフィア・グループ、現ロシア政権に批判的で英国に亡命中の実業家ボリス・ベレゾフスキー(Boris Berezovsky)氏らのいずれかだろうと述べ、しかし「主要な役割を果たしたのは英国の情報機関とその工作員だ」と語った。

 ルゴボイ氏は、リトビネンコ氏殺害の動機について、同氏もベレゾフスキー氏もロシアの元情報機関員でありながら、MI6に協力していたとし、「リトビネンコ氏に対してMI6のコントロールが効かなくなり、抹殺したという考えは捨て去りにくい。相手がMI6でなかったとすれば、彼らの下で動いていた者たちや協力者だろう」と述べた。

 会見の発言に対し、英外務省は31日、事件は「刑事事件」であって情報活動には関係ないと断言した。

 AFPの取材に応じた外務省広報官は、「これは刑事事件で、情報活動に関連する問題ではない。ルゴボイ氏に英国で裁判を受けさせるための身柄引き渡し要請を、ロシア側は受け取っている。我々はロシア政府の正式な返答を待っている」と答えた。

 MI6が暗殺の黒幕だという発言や、ルゴボイ氏が自分もスパイ行為をするよう勧誘されたという談話については、「我々は現時点で興味を持っていない」と言うにとどめた。(c)AFP