【ニューヨーク/米国 7日 AFP】米国のテレビ界で最も成功したシリーズ物の一つであるケーブルテレビ局HBOのマフィア・ドラマ「ザ・ソプラノズ(The Sopranos)」の最終エピソードがいよいよ現地8日からスタートし、数百万人の視聴者がテレビに釘付けになることが予想される。誰が殺され、誰が一員となり、誰が投獄されるのか…これから6月の最終話まで全米で様々な憶測が飛び交う。

■「テレビ史上最も完成された脚本」各メディア絶賛の嵐

 1999年に第一回放送がされて間もなく、各メディアはすぐさま同ドラマに注目し、これまで大絶賛を浴びせてきた。ニューヨークタイムズ(New York Times)紙が「過去25年間で最も優れた米国大衆文化の作品」と評するかたわら、ワシントン・ポスト(Washington Post)紙は「単なるテレビシリーズという位置を超え、多大なる反響を獲得している」と称えた。ヴァニティ・フェア(Vanity Fair)誌は同ドラマを「テレビの世界を変えた恐れを知らないシリーズ。おそらく現代の大衆文化から発生した最高傑作」とした。「『ソプラノズ』が、テレビの歴史上最も完成された脚本を持つドラマシリーズであるというのは誇張ではない」同誌は過去10年に撮影された同ドラマの86時間の歴史に捧げた特集の中でこう賞賛した。

■「単なるマフィア・ドラマ以上のものがある」

 1話を監督し、11話に出演したハリウッドの監督/脚本家ピーター・ボグダノヴィッチ(Peter Bogdanovich)は、HBOとのインタビューで「ソプラノズ」にはマフィア・ドラマ以上のものがあると語った。「コンセプトから制作過程まで、これは驚くべき作品です。人気があるのは偶然ではありません」「確かにこれはマフィアに属する男の話ですが、俗にいうマフィア・ドラマではありません。『ゴッドファーザー(The Godfather)』や『グッド・フェローズ(GoodFellas)』などになぞられるマフィア・ストーリーとは一線を画しています。この作品は大きな意味において“アメリカ”を語ってると思います」と彼は述べた。

 この番組では機能不全に陥っているソプラノ家の日常が描かれており、特に同マフィアのボスであり、個人的な問題のため精神科医に通うトニー・ソプラノ(Tony Soprano)に焦点が当てられている。子供を、そしてメンバーをまとめようと四苦八苦するトニーの姿は、可哀想ではあるが、これがストーリーをとても面白くしている。家族や部外者に対し、自分が「廃棄物管理」をして働いているというトニーの主張は、多くの人から信用されない。

■米国社会の実像描いたストーリー

 「このドラマで描かれている家庭崩壊した家族像は、米国社会における一部の層を見事に代表している」ピーター・ボグダノヴィッチはいう。「それがこのドラマが人々から反響がある理由だと思います。とても現実的なのです。この話は私やあなた、そして近所の人たちについてなのです」

 元々フォックス(Fox)系列のために企画された同ドラマは、プロデューサーで脚本家のデヴィッド・チェイス(David Chase)による長編映画の台本から展開していったもので、最終的にケーブルテレビ局のHBOのもとにやってきた。コマーシャルがないため、このドラマは脚本家に自由裁量を与え、また保守的な放送局が設けたであろうヌード、暴力、ののしり言葉表現の規制を無視することもできた。

■徹底したリアリティーの追求

 人気の鍵となっている、表現力豊かな言葉や暴力的映像、セックスや薬物の使用シーンなどの要素は、物語にリアリティーを付与している。「『Fuck』と言ったり、誰かの頭を撃ち抜くシーンなどがあったから成功したのではありません。ある種のリアリティーを持たせるためには全てが適当でなければならないのです」チェイスは先日ヴァニティ・フェアに語った。「もし私が、この家族やこれら敬虔な教会団体についてのシリーズをやっていたとすれば役者に『Fuck』や『Shit』などのののしり言葉を言わせたり、お互いに頭を撃ちぬきあわせたり、胸を丸出しにして踊らせることはしないでしょう」「しかし実際には、どんな理由であれ、ほとんどの米国の人々は日常生活でののしり言葉を使うのです。だから私はテレビを観ていてそれがないと、現実における人々の話し方をきちんと描写してないと感じるのです」

 しかし主婦を意味する「goomah」や、「mulignan」「fanook」といった黒人や同性愛者に対する侮蔑語の使用に対し非難が巻き起こった。その中で最も非難の声を上げたのが、番組内において「偏狭な人間」、「妻を殴る夫」、または「犯罪者」として描かれているイタリア系米国人たちである。

 元々の家族名が“ディセザーレ”で、精神療法を受けていた時期にこのドラマのアイデアを思いついたというチェイスは、自分の人生の実体験に基づいた真実味のあるストーリーを描きたかったと述べた。「マフィアにまつわるドラマですが、『ザ・ソプラノズ』は私の家族がモデルとなっている。だから私にとっては限りなくパーソナルなんだ」とチェイスはヴァニテイ・フェア誌に語った。

 トニー役を演じた俳優のジェームス・ガンドルフィーニ(James Gandolfini)は「とても素晴らしいドラマだが、そろそろ幕引きをする潮時だ」と述べた。たくさんの視聴者は納得しないだろう。特にこのドラマのおかげで数百万ドルを稼いだHBOの幹部らは。「このドラマが終わることに動揺はないよ」とガンドルフィーニは、彼の役トニーが最後に逃げ切るのか、投獄されるのか、あるいは海底に沈められるのかを明かさずに述べた。

 写真は2007年3月28日、NYのレディオ・シティ・ミュージック・ホール(Radio City Music Hall)で開催された『ソプラノズ』最終エピソード・プレミア会に出席した俳優のジェームス・ガンドルフィーニ。(c)AFP/Getty Images Evan Agostini