【ウィーン/オーストリア 20日 AFP】イランの核開発計画をめぐり危機感が高まる中、同国がウラン濃縮に必要なガスを核施設に移動させていることが、複数の外交筋により19日、明らかになった。

 情報によると、イラン政府は1月に同国中心部ナタンツ(Natanz)の地下核施設にウラン濃縮を行う遠心分離器の設置を開始。2月上旬に、ウラン濃縮に必要な6フッ化ウラン(UF6)を中部イスファハン(Isfahan)のウラン転換施設から、ナタンツの施設に移送したという。

 このガスは濃縮により平和利用目的の核燃料として用いることができるが、原子力爆弾の製造に使用することも可能。国連安全保障理事会(UN Security Council)は2006年12月、イランにすべての核濃縮作作業の全面停止を求め、制裁決議を採択していた。

 ウィーン在中のある外交官は「UF6を2月にナタンツの施設に移動させたということは、いつでも遠心分離器を回転させられる状態になったということだ」と指摘。移動させたUF6は9トンで、完全抽出すれば少なくとも核爆弾1個を製造することができる分量だという。

 またイランの核計画を監視している別の外交官によると、同国がすでに濃縮作業を開始したことを確認したという。

 これらは極めて微妙な情報であることから、両外交官は匿名を希望している。

 英国の国際戦略研究所(International Institute for Strategic Studies、IISS)に所属する拡散防止関係の専門家Mark Fitzpatrick氏は、イランがUF6をナタンツの核施設に移動させたことについて、「これは挑発的な行為だ。UF6を注入して遠心分離器を作動させることは、妥協案を求めている国家の取る行動ではない」と述べている。

 イラン核開発計画に対する緊張の高まりを受けて、イランの核問題交渉担当者アリ・ラリジャニ(Ali Larijani)最高安全保障委員会(SNSC)事務局長はウィーンで20日に、国際原子力機関(International Atomic Energy Agency、IAEA)のムハマンド・エルバラダイ(Mohammed ElBaradei)事務局長との会談を予定している。

 イラン側はウラン濃縮活動の停止を拒否しているが、ラリジャニ事務局長は会談で、イラン政府が核爆弾の製造を行わないという保証として、ウラン濃縮に関して公式な制限を設けるという妥協案を提案する旨を示唆していた。

 UF6の遠心分離器施設への移動に関する報道はこのような状況下でのことであった。

  写真は3日、首都テヘラン南部のイスファハンにあるウラン転換施設内のUF6を製造する機器類。(c)AFP/BEHROUZ MEHRI